この世界
かたいかたい黒だった。世界を濡らしてオレを拒絶して。肌に馴染まない。触れているのに届かない。冷たくて痛い。かたさがつんと弾いて寄せ付けない。なのに目の前は黒しかなくてオレはどこにも行けない。行けない。逃げ道も行き先も来た道もない。脳がびりびりと震える。どうにか、しなくては。どうやって?たかが中学生のオレに何が出来るだろう?くるめられてオレの体は拒まれて小さく押し込められる。痛い圧縮。
「本好、大丈夫か。」 視界が開けた。重力が全身に均等に感じて現実だと知る。目に映ったのは大きい、暖かい人。 「美っちゃん…。」 その顔を見ようと身を捩れば布団が擦れて小さく鳴く。手のひらが暖かい。痺れた手にもしっかり感じる。ずっと握っていてくれたのか。 「お前は昔から熱出すと錯乱するよな。」 なんて優しい言葉を掛けて美っちゃんはオレの額を撫でる。柔らかい手にさっきまでの恐ろしい黒が消えて穏やか。美っちゃんはすごい。どこにいてもいつもオレを助けてくれる。 「美っちゃんが来てくれるなら風邪も悪くないね。」 目を閉じた。 「バカヤロウ。さっさと治したらもっと、」 果たしてこれが夢だとしても、美っちゃんが居るならそれが全てで構わない。
091105
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