君怯えて

※原作軸でとんでもパラレルの予感。





「福田くん、無理は承知で頼むんだが…しばらく、泊めて貰えないか?」
 雄二郎はどこか焦っていた。打ち合わせに来たのかと思えば出た言葉はそれだった。オレは指先でくるくると回していたペンを落としてしまう。動揺ではない間違っても。
「別にいいッスけど…うちベッド一つしかないですよ。」
 連載作家になったとは言えアシスタントも一人しか雇わないオレには狭いワンルームが似合いだった。平丸さんはデザイナーズマンションを買ったとか買わないとか言ってたがオレはオレだ。実家のこともあるし贅沢はせず金は貯めておきたい。新妻くんの所みたいに大所帯になるとアシスタントの仮眠も必要かも知れないが幸いただ一人のアシスタントは家が近いから週3日、通いで来てくれる。
「平気。床で寝るから。」
 何故泊めてくれだなんて言うのか理由はわからなかったが野暮な事は聞かない主義だからそのまま立ち上がり狭い廊下に出た。風呂場の明かりを付けて湯を沸かす。時間は既に23時を回ってる。朝から仕事の雄二郎はきっと疲れてるだろう。
「風呂、入りますよね。すぐ沸くんで、石鹸とか適当に使ってください。」
「ああ、ありがとう。」
 タンスからバスタオルと代えのTシャツを出して雄二郎に向かって投げ、下着はどうしようかと考えていれば雄二郎が下着は持って来たと言うから納得してタンスの引き出しをしまう。
「……福田くん。」
「なんスか。」
「理由とか聞かないの?」
「言いたいなら聞きますけど、友達や編集部の人に頼らないってことはなんかややこしい事情なんでしょ?」
「…鋭いね。」
「人の考えが読めなきゃ漫画家なんてできませんよ。」
 雄二郎は苦笑してオレのバスタオルとTシャツを抱き締めた。少し不思議だった。いつもオレが使ってる物を雄二郎が持つと何か違って見える。
「福田くん、でもね。」
 随分前に掛けたパーマは緩んでモジャモジャとよくわからない髪型になった雄二郎が口を開いた。
「君なら助けてくれると思ったんだ。」
「…そーすか。」
 お湯借りるね、と雄二郎は言ってTシャツを脱いだ。オレは素っ気なく返して部屋の扉を閉めた。
 漫画家は人間を作り出して動かす職業だ。色んな性格の人間の感情を捉え物語を作り出す。だから人の考えくらい読めなくて漫画家は務まらない。
 雄二郎は怯えていた。
 もしオレが泊まることを断っても袖を掴み泣き付きそうな程に怯えていた。読めない理由をあれこれ思案しても下らない妄想にしかならずデスクに戻って下書きを再開した。



091029
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