明らむ心音

※「ふざけるな」の続編




 今は社会人として仕事をこなす僕も学生だった時代があり、かつては今の彼と同じ年齢の時もあった。だがもしその僕が彼と出会えばどうだろう。きっと会話もせず目さえ合わせなかっただろう。だからこの感情には納得がいかない。こうして僕は保身の為にまたひとつ否定要素を挙げた。
 一度酔うと自分を失う。それを知っていたから仕事絡みの席では酒は控えていた。なのにどうしてか彼と居ると有り得ない思考ばかりを巡らす自分がいて、それを否定しきれずに酒に逃げるのだ。…ばかか。
 ここまで挙げた有り得ない思考の否定要素は四つ。一つ、仕事に真剣な余り感情移入している。二つ、年齢が離れすぎている。三つ、性格や趣味が合わない。四つ、いくら彼がイケメンというヤツでも男同士である。
 プレイバック、昨日の居酒屋。重なった唇、男のそれは乾燥していた。目の前の男に唇を寄せた。官能、煽情、欲情、綺麗だった。
「僕が女の子でも、福田くんを好きになったかな。」
 僕がそんなとんでもない事を口走った途端に目を見開いた彼、その続きの記憶はない。目が覚めたらワンルームマンション。趣味からそこが彼の部屋であることを悟った。もし彼が連載になれば頻繁に訪れる事になるだろう部屋に既に居ると言う違和感に眉を歪めながら辺りを見回すも彼の姿はない。デスクの上にウコンエキス入りのドリンクとミネラルウォーターにパン。そして部屋の鍵。ボツネームの裏に書き置きがあり彼がバイトに出かけているということと食料は勝手に食べていいということが書かれていた。コンビニの廃棄だったらしいドリンクを飲んで時間を確認する。8時過ぎ、出社には間に合う。ぼんやりと彼の住所を思い出しながらミネラルウォーターとパンを有り難く頂戴して鞄に詰め込む。最悪迷ったらGPSもあるし何とでもなるさ、と前向きになって昨夜の事は余り考えず部屋を出た。
 だが現在、昼下がり。仕事が乗らない。浮かぶのは昨日の一連の出来事とあの正気の沙汰とは思えない自分の言動への嫌悪だった。ちらつく福田くんの綺麗な顔立ちの上に先程挙げた否定を四つ重ねてもまだすっきりせず喉が鳴った。どうにも処理しきれず何度も唇の感触が甦り、銀髪が網膜に焼き付いている。
 本当に、メチャクチャに、絶対に、間違いなく、おかしい。
 不意に携帯が震えて新着メールを確認すれば差出人は漢字四文字。
『鍵、ポストに入れて置いて下さいって言うの忘れてました。オレ、締め出し(笑)』
 メールを手早く返して出掛けて来ますと同僚に声を掛けて編集部を出た。
『届けてやるから単車回せよ。』
 ああ、顔が緩んで仕方ない。おかしいと自覚してるけど足取りは軽かった。





090919
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