ふざけるな

※「自覚しない」のその後




 くだらねーことを言う人間が嫌いだ。結局この世の中は喧嘩だ。勝ち負けがあってこそ世界は回る。小学3年の時にPTA所属のババアが運動会の徒競走に順位を着けるのは不平等だと言い出した。結局その年から徒競走は男女4人で手を繋ぎ運動場を一周するだけの無意味な遊戯へと変わった。ガキのオレでもくだらねーと思って仏頂面で走った。徒競走は順位を着けることが目的の競技か?バカか。そのくだらねー平等主義が大切なものを潰してることにも気付かねぇ。

「福田くんってめちゃくちゃモテるね。」
 ジョッキを2つ空け顔を真っ赤にした雄二郎が唐突に言った。上唇にビールの泡をつけ視線はぼんやりとオレを捉えている。たまに雄二郎が八つも年上とは思えなくなるのはこういう時だ。弱いのわかってんだからガブガブ飲むなよ、と思うオレを余所に雄二郎は3つめのジョッキ掲げ黄金色の液体を喉に流した。
「別に、大体は見掛けだけで寄ってくるバカだし。モテるって感じじゃないっスよ。」
 雄二郎は虚ろな目のままそうかなあとかむにゃむにゃと口籠りジョッキを握ったままテーブルに頬杖を着いた。未成年はジュース、という雄二郎の言い付けを守りウーロン茶を飲んで枝豆を一つ取る。最近の居酒屋に多い全席個室のこの店で案内された座敷は照明や音楽も雰囲気良く寛ぐ事ができた。その所為か雄二郎も今日はペースが早かった気がした。目の前の鉄板にはキャベツやそばの燃えカスがこびりついていて久しぶりに食べたお好み焼きの味を思い出させる。ああ、そういや雄二郎は猫舌で火傷したとか言ってたっけ。
「雄二郎さん、火傷大丈夫なんスか?」
「…んー?」
 雄二郎が赤い顔を揺らして瞼を落とした。返事らしい返事はなく唸る声だけが聞こえる。こりゃダメだ。26にもなって自分の飲める量もわかんねぇのか。仕方なく店員に水を持って来るように頼み、雄二郎の隣に回る。握ったままのジョッキを離させ背を撫でてやれば赤い顔がこっちへ向いた。
「福田くんって綺麗だからさぁ…どこに居ても目立つ。」
 酔っ払いの譫言と流して店員から水の入ったグラスを受け取り雄二郎の口元へ持って行く。
「はいはい。いいから水飲んでください。」
 再び聞こえた唸る様な声、雄二郎の視線はなんとか水を捉えてゆっくりとグラスを傾けてやれば細い喉を下るのが見えた。少し飲んだ所でグラスを持つ手を雄二郎が握った。グラスをテーブルに置いてその顔を覗き込む。視線が合った。
「福田くん。」
 グラスは離したのに握られた手はそのまま。合った視線も逸らせず何故か耳が遠くなった。唇から漏れる吐息に喉が鳴って、気付けば雄二郎の顔が間近に迫っていた。もう一度名前を呼ばれてその振動は唇に直接伝わった。
 酔っ払ってた雄二郎がキスしたのかはたまたオレがトチ狂ってキスしたのかわからなかった。唇が離れて沸き起こる混乱動揺。雄二郎は何でもないように笑って首を傾げた。
「福田くんは綺麗すぎるよ。」
 雄二郎さんの方が可愛いすぎる、と脳内に突然湧いて慌てて否定した。ふざけるな。男に綺麗も可愛いもねぇだろ、と力一杯否定した。顔が熱い。ふざけるな。ふざけるな、ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなッ!!!




090828
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