ぱたぱたぱた、走る、走る。
私はライオコット島には行けない。お金も貯めたしチケットも知り合いに出来るだけ頼みまくって取れるように手を尽くしたけど、どうしたって取れなかった。たったの一枚も取れないって、よっぽど運がないみたい。
だから私はあなたとはいけないけど、でもね、テレビ越しにあなただけを応援してみせる。え、いや、そりゃあユニコーンのみんなも応援するけど、やっぱりあなたは別枠。なんていうか、ええと、ええと、私の大切な人枠!だからね、あなたはきっと特別はりきって応援してみせるわ、神に誓って。
でもとりあえず何よりの課題が一つ。
私の大切な人、素敵な恋人、ディラン・キースはもうあと20分もしないでアメリカを発ってしまうのだ!
なんてばかをしてしまったんだろう、ディランが、ディランがもう行ってしまう。これから何週間も会えなくなってしまうのに、忙しくなった彼とは連絡が取れなくなってしまうかもしれないのに、生身の彼と会える最後の機会にこんなに遅刻しちゃうなんて!
最後にかわいい私を見せたいからって、服を選ぶのに時間をかけすぎてしまった。髪なんて巻かなければよかった。そうしたら、一本前のバスにのれて、あんな渋滞なんかに巻き込まれなかったかもしれないのに。サンダルを選んでしまった自分が憎い。走りづらいよ。ディラン、もう飛行機に乗っちゃったのかな。待ってよ、もう少し、もう少しで着くよディラン。神様、どうか少しでいいから時間を止めてください!

空港に駆け込んですぐに携帯を開いた。不在着信が幾つか。ごめんねディラン。泣きそうになりながらコールする、お願い、気づいて。まだ搭乗してませんように。


『名前!今どこにいるんだい!?』
「ディラン!ごめん、バスが遅れちゃって、今空港についたとこで」
『オーケー、待ってて!』


電話はすぐに切られてしまった。ディランはせっかちすぎる、こんなに広いのに一体どうやって私を見つけるっていうの?ディランがなんだかかわいくておかしくて、少し落ち着けた。ほんとに私の恋人は魔法使いみたい。さあコールし直そう。それから、ディランと再会して、お別れのキスをして、それから。それから。
落ち着いた途端に急にさみしい未来が見えてきて、視界がぼんやり滲んだ。泣いちゃだめ、我慢しなきゃ。…それでもディラン、やっぱり私、さみしいよ。


「名前っ!!!」


瞬間、ディランの声がして、私は真後ろからなにかにぎゅうっと抱き着かれていた。なにか、じゃない。こんなの、ディラン以外ありえないもの。私はすぐに振り返って、ディランの胸に飛びついた。


「ディランっ!!!」
「名前、間に合ってよかった!」
「私も、本当によかった!ディラン、会えなかったらどうしようかと…!!」
「ミーもちょっと不安だったけど、名前があんまりかわいい格好してるから一発で見つけられたよ」
「えへへ…かわいいかな?」
「最高にキュートだよ!」


ちゅ、ディランのくちびるが私の瞼に落ちる。まさか、まさか。ディランのキスにはいつだって意味がある。私も慌ててそこを触ると、涙が伝っていた。そんな!せっかくほめてもらえたのに、これじゃメイクが落ちちゃうよ。濃くし過ぎないようにお母さんにも手伝ってもらって頑張ったのに。
慌てて拭こうとすると、ディランは私の手首を捕まえてまた目元にキスをした。左右に一回ずつ。ちゅっ、ちゅって。それから最後に、いつもの場所。どこかなんて、察してよね。ディランの魔法のおかげで、私の涙は止まっていた。


「泣かないで」
「うん、」
「ほらもう行かなきゃ」
「うん、いってらっしゃいディラン」
「違うよ名前」
「え?」
「一緒にいくよ、ミーとさ」


ディラン、でも私試合のチケットもライオコット島行きのチケットも取れてないのよ?大丈夫、ユニコーンの専用ジェットで行こう!ホテルも取れてないし。合宿所でミーと同じ部屋を使おう。それか、マネージャーになれば大丈夫だよ!
ディランを見上げた私の目元に、またキスが振って来る。私、また泣いてた?でも今度のはね、さっきとは違うから。


「ディラン、大好き!」


ディランの首に抱き着いてキス。走りづらかったけど、ヒールにしてよかった。じゃなかったら私からディランにキスするのって、すごく大変なのよ!





100929
なにこのテンションw





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