「臨也ぁー」
間延びした声、が、すぐそこでした。
瞼を持ち上げて、少し視線を下げると床に丸まる名前。そこで初めて自分が寝ていたことを知った。寝転がる彼女は俺を見てにこりと笑う。
「おはよ」
「…俺、どのくらい寝てたかな」
「ん、20分くらい?」
アイスティーおいしく入ったからあげようと思ったら、もう臨也ねてた。
言われてテーブルを見れば、そこには存分に水滴にまみれているグラスが一つ。まあせっかく入れてもらったんだと口に運ぶけど、氷がすっかりとけたそれは少しぬるくて薄かった。…うん微妙。
それをテーブルに戻してソファに深く座り直す。少し暑い。はーとついたため息に、ピッと応えた小さな電子音。
「…もしかして君、クーラー」
「切ってた」
「………なんでわざわざ」
俺が起きている間はついていたから、きっと寝ているときに消されたんだろう。で、暑いと。こお、と僅かな音を立てたクーラーから冷気が流れ出す。少し汗ばんだ肌が気持ち悪かった。リモコン、今度から隠してやろうか。
と、床から感じる視線に視線を絡める。冷気は下にたまるし、ぺろんとお腹を出してフローリングに横たわる彼女からしたら寒いのかもしれない。
「…臨也、手ぇ冷たかったから」
「は?」
「冷え症のくせに、なんもかけずに寝てるから、わざわざ消してあげたんですぅー。暑くてしぬかと思った」
かわいらしく口を尖らせる名前は、よじよじとソファを上って俺の膝に頭を乗せた。そのまま指先をからめとられて、彼女の手のあたたかさにびっくりする。確かに、少し冷えているかもしれない。
「臨也」
「ん?」
「おはよう」
「…おはようって言えば満足かい?」
「ううん」
「じゃあ何」
「お腹すいた」
はむ、と指先をくちびるで挟まれて、そのままはむはむと甘噛み。やわらかいくちびるをなぞりながら何がいい?と尋ねると、そーめん!と元気に返ってくる。またか。思わず笑うと、きゅうりの千切りたくさんね、と随分安上がりなトッピングのリクエストが。いいよ、と答えるとうれしそうに笑った。指先はもうとっくにあたたまっている。
110716