坂田銀時様。


此方の封筒に×百万円入っております。
何の金かは、坂田様の方でお好きに解釈して受け取って下さいまし。此度の私めの我が儘を依頼だと思われたのならどうぞ報酬にして下さい。本当に結婚を考えて下さったのなら慰謝料として受け取って下さい。

私は此処に来たあの日、天人に大怪我を負わせました。坂田様程ではありませんが、私も腕に多少の覚えが御座います。店に来ていた子供が何かをしたらしく、土下座を要求するもので止めに入り乱闘、して其の様な結果に至りました。天人に頭を下げたのは大人であり、その身勝手で子供が頭を下げるのは私はどうもおかしく感じてしまうのです。
後悔はして居りません。
今から真撰組に行って参ります。追われている身です。もし万が一真撰組の方が来るような事があっても、雨宿りをさせただけだと仰有って下さいませ。それでは。一週間にも満たない短い間でしたが、誠に有難う御座いました。

追伸。
多分私はババアになるまで帰れません。結婚とやらをしてみたかったのは本当です。迷惑になるので本当にするつもりはありませんでしたが。ただするのなら、紛い物であっても、銀時、貴方としたかったのは本当です。











朝起きたら隣に何もいないのを見て、襖を開けるといい匂いがした。
何かに違和感を感じて窓の方を見ると、見事な朝日だった。てるてる坊主も正しい向きで、あのえげつない顔で俺を見ている。思わず笑えて、台所にいるあいつにも教えてやろうと覗き込んで、はたと気づく。

今日包丁の音しねえ。

やはり台所には誰もいなくて、代わりに三人分の朝食がきっちり完成した状態で置いてある。…ああ、なんか晴れたらどっか行くとか言ってたっけ。何の用事だか。
早く帰ってくるかもしれねえし、神楽が起きて来てから食おうと思って、とりあえずソファに座る。と、テーブルの上に見覚えのないもの。封筒と手紙。



「おい」

「…大串君さあ、人んち勝手にあがんのやめてくれない?」

「此処にきたのは知っていた。今朝突入する予定だったんだ、ツイてたなあテメェ」



朝から見るなんざ遠慮したい顔。それを横目で見て、綺麗に折り畳まれた手紙を目の前で透かして見る。読む気もしねえ。大体わかるっつーのこんなんよォ。
返事をしない俺が気に食わなかったらしい大串君がおい、と低い声を出す。だから、手紙から視線は逸らさないまま口を開く。



「ツイてねーよ」

「あ?」

「うちの嫁がなんかやらかしたんだろ。よく知らねーけど」

「…嫁?」



言うとしっくり胸に落ちる。そう、嫁。最も身近な坂田だ。
なんだか急に可笑しくなって口角が釣り上がる。昨日の会話を思い出した。あの馬鹿の間抜けな顔まじ忘れらんねー。
つーかこんな手紙残すなんて馬鹿じゃねえのマジで。生きがいみたいに大事にしてた団子屋捨てて俺口説きにくるなんざ、お前らしくもない。なんかあったのくらいお見通しだっての。わかった上で、受け入れてんだよてめーを。



「料理上手でよー、あっやべ他に何も知らねえわ俺。団子つくんの馬鹿みたいにうまい奴なんだけど」

「……らしいな。団子屋だったか」

「あれ、しわくちゃになる前には帰ってこいよーっつっといてくんない?」



玄関に向かうと、大串君がどこか行くのか、と鋭い視線で聞いてきた。心配しないでもあいつが決めたことなら俺ァ手出しするつもりねーんだけど。
だから、手紙の代わりに持ってきたそれを掲げてにたりと笑ってやる。



「婚姻届出してくらァ」



選択肢は最初から無かったってなあ、お前、金払えもしないのに毎週団子屋行ってた時から考えてた俺の答えと一緒だったんだよバーカ。





110507
季節は梅雨です。雨宿り。
(イメージソング:罪の味/ハンバート ハンバート)




- ナノ -