出かけて帰ってくると、家よりさらに酷い湿気にやられた俺の髪を見て奴は大笑いしていた。
で、何故か煎餅とかの乾燥剤が敷き詰めてある我が家に上がると、姉さんめっちゃ賢いアル!これで江戸中の湿気も一網打尽ネ!なんて騒いでる神楽と何かを諦めたらしい新八がいた。神楽、その姉さんは馬鹿なだけだぞ。



「おかえり坂田ァ」

「あっもうアレしたアルか!?おかえりのチュー!!!新婚ナメんなよコノヤロオオォ!!!!」

「神楽ちゃん落ち着いて」

「まだか!?まだアルか!?姉さん幸せにしなかったら許さねーからなァ天パああああ!!!」



大分懐かれたらしい。騒ぐ神楽越しにテーブルに山積みの団子が見えて大体察した。餌付けか。いいのかお前は本当にそれで。
と、馬鹿からタオルを投げられて受け取る。「おかえり」もう一回言われて、さっきの言葉を思い出した。…おい神楽、新婚ナメんなよコノヤロウ。



「坂田も団子…」



馬鹿はやっぱり馬鹿で、こいつと初めてしたキスはロマンチックとはほど遠い可哀相な何かだった。あ、でも悪くはない。
上がる新八の悲鳴と神楽の囃し声、両方ともうるせえからまとめて寝室の方に放り込む。襖を閉めて振り返ると、完全に停止したそいつがいた。お、チャンス。

その手をとって、今日の報酬を丸ごと費やしたそれを俺から向かって右側の小指の隣の指に嵌めた。安物だけどなかなか似合ってんじゃね?おい、と言って軽く頬を叩くとそいつはゆっくりとその手を持ち上げてまじまじと見た。



「…指輪?」

「ポテコにでも見えんの?」

「…え?坂田?なんで?」

「いーからもらっとけ。あと明日晴れたら婚姻届出しに行くから、お前もマジで坂田な」



信じられないという目から、ぽたりと零れた何か。見て見ぬフリして頭をぐしゃぐしゃに撫で回してやる。そこそこ長い付き合いだが、こいつが笑ってるとこ以外まだ数える程しか見た事ねーし、泣いてるとこなんて初めてだ。指輪やって泣かれるとか腹立つから撫でていた手で頭をはたくと、馬鹿はけたけた泣き笑いした。



「いいの私で?」

「はいしか選択肢くれなかった奴がよく言う」

「坂田なら無理矢理つくると思った」

「俺坂田もう一人くらい増えてもいいかなって最近思ってたからよー、ちょうどよかったわ」



そういうと坂田って馬鹿、とまたけらけら笑われたのではたく。お前のが馬鹿だろうと思うけど。「坂田名前になるのかお前」呟くと、悪くないねェと笑うそいつ。悪くねーってなんだ坂田ナメんな。
明日晴れたらちょっと用事あるから、それからでいい?なんて言われて頷く。



「ごめんね銀時」



軽い調子で言ったそれに乗せられたごめんに、いらねーよと突っ返すとまた笑われた。やけに上機嫌なその笑顔がなんかちょっと胸のあたりにきて、もっかい名前と唇をくっつけた。
新八と神楽が空気を読んでいるのか、やけに静かだなあと思ったらにやにやしながらこっちを見ている。





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