「…あ?」



朝起きたら、隣にいたはずの奴と布団が無い。寒い。雨の降る音がする。
のそのそ起き上がって便所に行こうとすると、台所の方から音。新八かと思ったが、今日は神楽の担当だった気がする。押し入れの方を確認すると、がんと中から音がした。おお、いるいる。



「起きた?」



台所を覗くと、昨日より大分顔色のいい馬鹿がいた。とんとんとんと新八よりも大分小気味よい、包丁がまな板を叩く音。
とりあえずそいつが体に巻き付けていた毛布を剥いで、俺がくるまる。寝起きだし。ああごめんごめん、と奴は笑うだけで何もしなかった。



「何、朝飯?明日は槍でも降るんじゃね」

「明日も雨しか降らないんじゃね」

「テレビ壊れてるからわかんねー」

「知ってる。直せよ」

「その前にあの紙お役所に出さなきゃじゃねーの?」

「そうそう」



確かにこいつは駄目女。やりたいことしか出来ない奴。だが、こうしてやりたいことに関してはやたら器用で、見ているうちにどんどん手は動く。
団子屋で働いてる時も、昼間は売って、早朝からその日の分の団子全部一人で作るなんて馬鹿な事をできたのはそのガキみてーな思考のおかげ。楽しそーに毎日毎日働いていた気がする。ほんとに閉めてよかったのか。

と、目の前に突き出されたのは小鉢。運んで、と言われて運びながらあくびを噛み殺した。ただでさえ金無いのに、さらに一人養わなきゃなんねぇなんて。



「坂田」



呼ばれて振り返ると、同時に顔面に何か投げつけられる。見ると、えげつない顔したてるてる坊主だった。「何コレ左手で書いたの?」手にした包丁を振りかぶられたので、そそくさと窓際に行く。
あいつは雨が嫌いらしい。いつぞや、団子食ってる時に愚痴られた事がある。客が来なくなるし、湿気にいらいらするんだとか。珍しく拗ねたような顔するもんだから、可笑しくて笑った気がする。



「あー坂田、逆逆」



吊すと、後ろから聞こえた声。…逆?えげつない顔したてるてる坊主は、もさもさした部分がちゃんと下にあって正しい向きだと思う。
だが、奴は俺の隣まで来るともさもさが上になるようにごちゃごちゃ調整しだした。器用にもその向きにすると、満足そうに眺める。窓の向こうではざあざあ雨の降る音がする。しばらく二人でそのまま突っ立っていた。



「お前さあ、雨嫌いじゃなかったっけ」

「嫌いだよ」

「なんで逆にすんの?」

「…あーそれはね、八つ当たりって奴だよ」



ほら早くしないと冷めるよ、なんていいながら台所に消える馬鹿。見送りながら頭をぼりぼりかいて、えげつない顔をしばらく見つめる。
俺は今日随分早起きだったらしく、神楽が起きて来る前に二人だけで飯を食った。フツーにうまい。そう言ったら、そいつは嬉しそうに口元を緩めた。そしたら俺にもなんか伝染した。お互い気持ち悪くなって爆笑した。奴に、昨日の顔色の悪さは無い。寝れたんだなあと思う。悪かねーなァ。





110507





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