「ダーリンお腹すいた」



風呂に入るなりソファで爆睡、帰ってきた神楽が上に座っても酢昆布食っても起きなかった馬鹿は、昼過ぎにようやく起きたかと思うと開口一番それだった。
俺がそいつの顔面に新聞を投げつけるのと新八が「ダーリン?」、神楽が「ダスキン?」と聞き返すのは同時で、どうやら馬鹿のせいで面倒なことになるらしい。近づいて頭を掴むと、けらけら笑われる。…ったく、めんどくせーこいつのせいで。



「おいバカヤロー何言ってくれちゃってんの」

「いいじゃんおはよー」

「ちょ、ちょっと待って下さいダーリンって…あなた確か団子屋のご主人さんですよね?」



新八が恐る恐るそう聞くと、そいつはゆるく首を横に振った。いや、縦だろそこ。寝ぼけてるのかなんなのか。「え」新八も確認に近い問いだったんだろう、困ったように俺とやつを交互に見る。
と、神楽がふと思い出したように言う。「私昨日店の前通ったけど閉店って書いてあったアル」…なんだと?



「うん、店畳んできた」



あくび混じりでそういった女は、もう一度お腹すいたーと言って丸くなった。三秒もしないで寝息。おやすみ三秒ってまじであるんだなあ…うん。



「ぎ…っ、銀さん」

「あー…そこ、干してあるだろ」

「え?」



雨のせいで部屋干しになってる服の一番端。あー見られたらうるさいんだろーなァ、絶対叫ぶよなあ。したらこいつ起きんのかね。お前寝過ぎだもん、新婚には見えねーよ俺ら。
そんなことを考えながらこいつの頭をぐしゃぐしゃに撫で回す。新八がまじまじと紙を見ているのが視界の隅に映った。



「何ですかコレ。読めないんですけど」



…ったくよー。









新八は帰ったし、神楽はもう寝た。結局まだすかすか眠ってる奴を放って風呂に入ったら、出てきた時に起きていてビビった。



「あ、坂田」

「おめーもな」

「あぁそっか」



機嫌良さそうに笑うそいつの顔は、散々寝たくせにやつれたような顔をしていた。
そこで風呂上がりのイチゴ牛乳を急遽ビールに変えて、両手に缶と口に柿ピーをくわえて横に座る。だがせっかくの俺の気遣いにもぼーっとしていて気付いていないらしいので、後頭部をすぱーんと叩く。



「疲れた顔しちゃってさー、何、借金にまみれでもしたのか?」

「全然、坂田のツケあっても黒字なくらい余裕でしたー」

「じゃあどうしたんだよ」

「ちょっと寝不足」



あまりに馬鹿な事を言うからはあ?と聞き返すと、うとうとくらいしかできてないの、と返された。ぷしゅう、と心地好い音がして、はっとした時にはそいつは既にビールに口をつけていた。喉仏の無い喉が、上下にどくどく動く。
口を離した瞬間、缶を奪ってそれを一気に飲み干した。勢いよくテーブルに置いて、馬鹿の手を掴む。そのまま立ち上がって寝室に行こうとすると、手の先からけらけら笑い声。



「なに、初夜?」

「違ぇよバカヤロー。ソファなんかで寝てるから寝不足なんだろ」



がらっと寝室を開けて、そいつを放り込む。布団に突っ込んでいった奴は、そのまま周りを見て、俺を見上げた。「一緒に寝るの?」我が家に今布団の余りはない。つーかたくさん持ってられる余裕ねーし。



「夫婦ですから」



そう言い放つと、女はけたけた笑った。いちいち反応してるのも面倒くさいから俺も馬鹿に背中を向けて布団に横たわる。そいつもすぐ俺の隣に並んだ。上から毛布をかけると、少しだけ擦り寄ってくる何か。
…振り返って、問答無用で頭を掴んで持ち上げ、その下に腕を押し込んだ。





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