「そうか」


予想外に隊長は無反応のまま、手元の報告書に視線を戻した。あれ。私が一人でばかみたいに飲んだことも、机を叩いたことも何も言わない…?
拍子抜けして、それと同時に日番谷隊長の机の上に気まずそうに残っている我が両手の存在を思い出す。地味にじんじんするそれを、そおっと私の体の横に戻した。あれ。明らかに挙動不審なのに、これも何も言わない感じなんでしょうか。


「名字」
「はいっ」
「なかなかいい働きしたみてえだな」
「…っは、はい!」
「だが、昨日報告書すっぽかして飲みに行った分でプラマイゼロだ。明日からまた気引き締めて仕事しろ」


心にしみる。昨日帰ってあのまま報告書を仕上げていたら、今ごろ日番谷隊長に褒められていたはずなのだ。くうう。日番谷隊長のデレ顔見たかったなあ。眉間のしわのない隊長…しわのない…想像つかない。まだ私のレベルでは見るのに早かったということか。うん。仕方ない。うんうん。…駄目だ。かなしいというかくやしいというかさみしいというか。すごく、そんな感じ。
かつてないテンションの下がりようを顔に出さないべく、ぎゅっと死覇装を握ってがまんする。


「ほら、報告書。書き直してこい」
「わかりました」
「ちゃんと書けてた」
「え」


おずおずと差し出した両手を日番谷隊長に掴まれた。なんぞ。何が起こった。目をかっぴらいて隊長を見ると、なんでもなさそうな顔でしわくちゃの報告書を私の手に握らせてくださる。


「書けるようになってきたじゃねえか」


未だに固まったままの私に、さらに追い打ち。日番谷隊長は事もなげに、まるで「今日は天気がいいな」っていうくらいの感じで、そうおっしゃった。
信じられなくてひたすらまばたきを繰り返していると、日番谷隊長が呆れたように一つため息をついた。いやでも呆れっていうより、なんていうの、仕方ないなあみたいな。


「さっさと書け」
「はっはい!」
「紙と筆。ここで仕上げろ、終わり次第あがっていい」
「は」
「今日は休んでいい」
「ひ、ひつがやたいちょう…!」
「有休からはしっかり引くぞ」
「はいっ」


なんてやさしい。差し出された筆と紙を掴みながら、私はやっぱり日番谷隊長のもとで働けてよかったとしみじみ思った。自慢の隊長。まさにそれ。あとでお茶をいれよう、お茶菓子も乱菊さんが隠してた高級なやつにしよう。
まあそんな考えごとしながら何かできるほど私が器用なわけなくて、墨汁をちょっと零しちゃったりするわけで。どこまでもかっこつかない私である。だから事務仕事はいやなんだ!違います苦手なんです生意気いいました。日番谷隊長に紙をもう一枚いただけないでしょうかと頭を下げると、また一つ大きなため息をもらってしまった。でもなんだか少し隊長の機嫌がよく見えましたまる





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