「ご苦労」


任務の報告書を出すと、日番谷隊長はそう行って目を細めた。ちょっとすぎてわかりづらいけど、笑っている。最近ようやくそれに気づいて、この間までは渡すのが嫌でしょうがなかったこの報告書を書き上げるのが楽しくなったのだ。相変わらず下手だのわかりづらいだの言われるが、それはもう開き直った。仕方がないことだって世の中にはある。乱菊さんが言ってた。


「おい、名字」
「はいっ」
「また居眠りしてただろ」


この字なんだ、と言われてさされたところにはみみずがのたくったような字。しまった。さっき意識が飛んだと思ったけど、ここだったか。「しょ、象形文字です」「先人を馬鹿にするな」「ごめんなさい」日番谷隊長のつっこみは手厳しい。
返された報告書を受け取って頭を下げ、退室しようとすると日番谷隊長がほらと筆と紙を差し出してきた。え?


「そんくらいすぐ終わるだろ、ここで直してけ」
「あっありがとうございます!」


乱菊さんの使ってなさそうな机をお借りして、そこでもくもくと作業をする。部屋には私の筆を動かす音と、日番谷隊長が紙をめくる音しかしない。やべえ、寝れるわけがない。そんなわけで右の紙から左の紙へ写す作業はすばらしく早く終わった。普段なら今ごろ睡魔と頂上決戦しているころだ。なんだ、やればできるじゃない私。
どや顔でちらりと日番谷隊長をうかがうと、眉間のしわを普段より深くして書類とにらめっこをしていた。きれいなお顔が台なしだ。まあ写真集でも大抵あの顔らしいが。さすがたいちょう。こびを売らないとかしびれるぜ。
ちょっと悩んだけど、結局私は報告書をもう一回出す前に給湯室にいった。いれたてのお茶と、つまみやすそうなお茶菓子。なんて気が利くいい子なんだ。自画自賛しながら執務室に戻り、それを日番谷隊長の机に置く。


「隊長、お茶どうぞ」
「…ああ、悪いな」
「いえいえ!あと報告書です」
「ん。よし、いいぞ」


日番谷隊長は頷くとはんこを押して、それを文鎮の下に置いた。よし、任務完了!ちいさくガッツポーズをしていると、おいと声をかけられる。
隊長に向き直ると、紙を一枚渡された。それを受け取る。今まで見たことがない、大きな任務だった。私はまばたきを一つして、日番谷隊長をガン見した。


「た、隊長」
「総指揮は松本だ。作戦は、お前に任せる」
「て」
「て?」
「照れます…っ」
「まだ早えっての。成功させて、ほめられてから言えよ」
「えっ」


私はまたまばたきをしてしまった。隊長は不思議そうだ。奇妙なものでも見るように私を見るけれど、私の手は喜びでぷるぷると震えていた。だってそうだ、つまり。


「成功したらほめてくれるんですか日番谷隊長」


隊長は固まったあとにため息を一つついて、そういうのは成功してからにしろとおっしゃった。それから、私のいれたお茶をすすった。がんばらなきゃ。そう思った。今なら卍解もできそうだ!ごめんなさい嘘です。





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