今日は私のプチ送別会。大規模なのじゃなくて、仲のいい少数メンバーでの。わいわいがやがや。私はぐび、とまたお酒を飲んだ。今日で十番隊がさいごなんて信じられないなあと思う。ゆっちゃんにさみしくなるねなんて言われた時、あの時は本当に異動なんだなって思ってさみしくなったけど。


「名前、ちゃんと飲んでる!?」
「飲んでますよー、明日の仕事にひびかない程度に」


乱菊さん酒くさっ。そう思いながら答えると、もっと飲みなさいよ!と一升瓶を渡された。えええこれはちょっと。「やっむりですって!」「女は度胸と愛嬌!」えええええ!ていうか乱菊さん私明日十三番隊での初仕事なんですってば!逃れようにも、私に酔っ払いに勝てるような力はない。乱菊さんに後ろからシメられて、近くにいた田中さんが一升瓶を構えた。田中ああああ後で覚えてろ!お前久々にみたと思ったらそれか!


「ちょっまじやめてくださいって!」
「松本、田中、その辺にしとけ」


あれ?たいちょう?シメる力がゆるんだから上を見上げると、私たちを見下ろす日番谷隊長の姿。あれ?今日はこないんじゃ、なんて言ってるひまもなく、隊長はすとんと私の隣に座った。
乱菊さんはいつの間にか退却していて、第七席や隊士のみなさんの輪におさまっている。田中さんもあわてて後を追うから、ああもしかして田中さんは乱菊さんのこと、なんて乙女脳で考えてみた。てっきりゆっちゃんだと思ってたよ。ぼーっとそっちの方を見ていると、「おい」と呼ばれる。そうだ、隊長。


「隊長、これたんですね」
「まあな。あれくらいすぐ終わる」
「あれくらいて…私なら何日かかると…」
「いじけんな」


かるく、こんと頭をこづかれる。隊長がめずらしくおちょこをもったから、私はさきほどの一升瓶をもってお酒をとぽとぽつぐ。日番谷隊長が隊士の前で自分から飲むなんて本当にめずらしい。隊長は「悪いな」と言って、ぐびりとそれを煽った。なくなったところにもう一度つぐ、隊長はこれまためずらしくそれも一息に飲んでしまった。


「明日だな」


ぽつんと隊長がつぶやいた。私もこくりと頷く。明日からは、もう私の隊長は浮竹隊長で、私は十三番隊第九席になる。もしかして隊長、結構さみしく思ってくれてるのかなあ。なんて、あはは、ノロケるってほどじゃないけど、さ!


「何にやけてんだ」
「っいや、あの、隊長が、…結構さみしく思ってくださってるのかなあと思うと、うれしくて」
「…さみしく思わないわけがねえだろばかやろう」
「で、ですよね、あはは」
「恋人だ」
「はい」


なんか、照れくさいのに、隊長のとなりにまたちょっとだけ近寄った。私がもっとダイタンだったら、手くらい握れたのかなあなんて。でもこの距離でも満足できるんだから、しばらくはこれでいいかも、しれない。
隊長はチキンハートにしてはがんばった私をちらりと横目で見て、それからすぐ前を向いた。え?む、無反応なんだろうか。


「………名前って、呼ぶからな」
「…は」
「駄目か?」
「ひ、ひつがやたいちょ」
「お前もちょっとはらしくしろ」


つまり、つまりそういうことでしょうか。そうだよなあ、明日から私は日番谷隊長の部下じゃなくなるんだし、いや地位は下だからよくはないんだろうけど、そうやって呼んでも、いいのかなあ。頭のなかで、日番谷隊長に呼んでもらった私の名前がきらきらかがやいてるみたいで、しあわせになったみたいに。私も、呼んでいいのかなあ。


「ひ、ひつがやさ」
「下で呼べ」
「………とうしろー」
「ん」
「…………さん」


お前なあ、とたいちょ…とっ冬獅郎さんにあきれたような顔で見られた。だ、だって呼び捨てなんて私の心臓がもたないし。それにそんなことをいいながらも、た…冬獅郎さんはなんだかうれしそうで、私はにやにやしてしまった。冬獅郎さん。冬獅郎さん。慣れるまで時間がかかるかもしれないけど、そうして慣れて、その名前を呼ぶ時間がその何倍も何十倍も長くありますように。…なんて付き合いはじめから願うことじゃないのかなあ。でもそう思うんだからしょうがない。


「とうしろーさん」


冬獅郎さん、冬獅郎さん。何回もつぶやいてるとまたこづかれた。今度のはきっと照れ隠しだ。お見通しなのさ!なんてね。
だけど、私をこづいたその手がまさか、私の手に重なるだなんて思ってなくて、びっくりしてたいちょう!と叫んでしまった。私のばか。みんなが振りかえって、乱菊さんが笑いながら「いちゃつくならよそでやんなさーい!」なんていうから、冬獅郎さんはすっかりご機嫌ななめになってしまった。だから、今度は私から手を重ねる。みんなの冷やかす声の多さにひっこめそうになったけど、冬獅郎さんがぎゅうと握ってきたからがまんした。あったかい。しあわせすぎて頭おかしくなりそう。あなたに近づけば近づくほど、私はしあわせになるんだ。よくばりでごめんなさい。でもこうしてとなりにいて、手をつないで。
ねえ冬獅郎さん。
私、あなたが大好きです。




101209

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