今までは気にならなかった。いやだって隊長見てたらしあわせだったわけだし、いつかくる返事をまってればよかった。だけど、先週をもって私の異動は正式に決まってしまったわけで、つまり時間がない。はやく返事をいただかなくてはならないのだ!


「しっ失礼します!」


定時後、がっちがちに緊張しながら執務室に入ると、日番谷隊長はツチノコでも見るような顔で私をみた。だけどすぐに視線を落として、書類にさらさらさらっと何か書いて、ハンコを押す。それを文鎮の下にいれて、大きく伸びをする隊長。あ、仕事ちょうど終わったのかな。


「どうしたんだよ、変な顔して」
「もっもともとですよ!」
「そうか?」
「…掘り下げられるとつらいですね」


日番谷隊長は呆れたように、でもちょっと口もとがゆるんだのを見逃さない。よし、迷惑ではない、はず。それにさっき乱菊さんが飲みに行くとこは確認したし、きっと人はこない。ああ、やっぱり隊長きれいだなあ、かっこいい。よし私、もう一回告白するんだ。今度こそ返事くださいって言うんだ!
私がそんなことをぐるぐる考えていると、隊長はかたんと小気味いい音をたてて窓をあけた。夕暮れのやさしい色と少し冷たい空気が、そうっと忍び込んでくる。


「ひっひつがやたいちょ」
「名字」
「はいっ!」
「傷、もう大丈夫か?」


きず?きず、傷…。あ。先週の入院したあれのことだろうか。思わずぺたんとふとももを触る私をみて、隊長はもう一度、どうだ?って聞いてくださった。だから、大丈夫ですと答える。私は、こんなにしゃべりづらいと思ったのははじめてだ。居心地は悪くないしむしろいいくらいなのに、咽につかえたみたいにしゃべれない。隊長といるからだろうか。わかんないけど。


「そうか」
「あの…た、たいちょう」
「心配させんな」
「は?は、はい」
「気づくとお前の心配ばっかしてる」


隊長がぼり、と首のうしろをかいた。こ、これはお前=私ということでいいんだろうか…?それはつまり、日番谷隊長が私の心配ばかりしてくださってるということで。私の心配を、隊長が。私は単純だから、その言葉の意味の選択肢はふたっつしかわからなかった。


「たいちょ、う」
「なんだ」
「それは、私がまだまだばかでぶきっちょで手がかかる部下ということでしょうか、それとも」


なんだ私、声ふるえてるぞと思うけれど、それはもう私ヘタレだし気にしないでいこう。からからにかわいた口で、それとも、ともう一度つぶやいた。


「私のこと、好きだからってことでしょうか」


しりすぼみになりながらもそう、言う。隊長は私を横目でちらりと見てから、机の上をかるく片付けだした。うそ、聞こえてなかったとか…?肝心なところで空振りをする自分にもはや感心しそうになる。今日はもうだめだ。せっかくいい雰囲気だったのになあ、隊長のにぶちん。「なあ」下をむいていた顔を少しあげる。「はい」気まずいなあ、はやく帰りたい。はやく帰ってごはんいっぱい食べてゆっちゃんとおしゃべりしてお風呂入ってそれから、「そろそろお前に返事したいんだ」それから…それから、じゃなくて、今のことを考えなくちゃ。





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