日番谷隊長だ。
間違いなく、日番谷隊長の霊圧。なんでここに…。うん、完全に私は不審者だった。壁はざらざらとしていてほっぺがいたいけど、このくらいおでこさんの労働にくらべればまだまだだ。私の失敗をいつもフォローしてくれるおでこさん。ってそんな場合じゃないし!全然会話が聞こえない。仕方ない、次の手段だ。
零圧を殺したままおそるおそる廊下にでて、隣の部屋の襖を背中に座る。誰もとおりませんよーに!耳をすますと、二人の会話はなんとか聞こえそうな感じがする。


「珍しいな、日番谷隊長がくるなんて」
「まあな。調子いいのか?」
「ああ。心配かけてすまない。」


相変わらず隊長は無愛想だなあ。もっと愛想よく話せないのかな、こう、にこやかに!ったく…自分に正直すぎてちょっぴり眩しいぞ隊長め。ていうか中を見たい。うぐ、気になる。


「明日書類を受理する予定だ」
「ああ。一ヶ月後までに机あけなくちゃな」
「当然だ。…八席だったか?」
「わかってるくせに聞くなんて、日番谷隊長も素直じゃない」
「…違ぇ」
「取り下げてくれって、言いにこなかったじゃないか。十番隊にどうしても必要な人材なら、俺は無理には引き抜かない」


テンポよく進む会話は私の耳をとおりぬけていくくせに、その話題の中心は私らしかった。は、八席だなんて聞いてない…!いつの間にそんなすごくなったのさ私。びっくりした。よけい気になって、ぴったりと襖にはりつく。


「浮竹」


たっぷりの沈黙は、日番谷隊長のとおった声で破られた。浮竹隊長がなんだい、とあのやさしい声で答える。心臓がばくばくといつもより大きくなっている。なんでだ、なんで私が?よくわかんない。息をひそめて、さらによく聞こえるように。


「名字のこと、頼む」
「…ああ」
「あいつは不器用なくせにやたら頑張るから、扱いが難しいぞ。ほめると調子にのるが、頑張ってるから適度にほめてやってくれ。それと字がきたねぇから、まめに注意してやれ。あと、茶ばっかいれるようになったらできる仕事がないってことだから簡単そうな書類渡してやってくれ」
「ああ」
「うちの大事な部下だ、頼む」
「わかった」
「頼んだぞ」
「ああ」
「………頼んだ」


私の鼓膜をゆらしたのは、予想のナナメウエを見事にいった日番谷隊長の言葉だった。で、デレ期…?まさか幻聴?さすがの私も、今のはただ私のはずかしいところを並べただけじゃないってことくらいわかる。隊長はそんなにSじゃない。う、うぬぼれかもしれないけど、ここははっきり言おう。せっせーのっ。…いやでもまさか。いやでも、そのまさかを言おう。
日番谷隊長が、私のことを心配してくれている。
寒いわけでもないのにぬれた子犬のようにぷるぷる震える右手を、左手でにぎりしめる。ついでにつめをたてる。OK、いたい。これは夢じゃない。





101206

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