目の前にはおいしそうなおかしが、私に食べられるためにずらりと並んでいる。ごくり。そうっと視線をあげると、浮竹隊長もにこにこしながら私を見ているので、本能に忠実にいきることにした。


「っいただきます!」
「どうぞ。好きなだけ食べていいからね」


う、浮竹隊長超いいひと!!日番谷隊長は絶対にこにこなんてしないし、おかしもくれない。いやまあべつにそんなところもだっだだ大好きですけど!でも今はちょっと浮竹隊長のが、いやいやいやそんなわけないです隊長。餌付けされるわけないじゃないですか。
もぐもぐほお張っていると、浮竹隊長がまだにこにこしながら私をみていることに気づいた。はっ私目的わすれてんじゃん!よし。私もつられるように笑いながら、そーっと両手を引っ込めた。


「あ、浮竹隊長。お聞きしたいことが」
「なんで君が欲しいかって?」
「そっそうです!」


あっ舌かんだいたい!緊張で手汗がすごい。だ、だってよく考えたら日番谷隊長以外の隊長さんとお話することなんてまずないし、そもそも日番谷隊長とも毎日お話してるわけじゃない。今さらになってびくびくしだす私のチキンハート。くっお前というやつは!


「なあ名字」
「は、はい」
「うちには副隊長がいない」
「…はい、知ってます」
「うちの三席たちは副隊長も兼ねてるからそうそう動かせないんだ。そうするとやはりこなせる任務も難しくなってね」


はは、と笑う浮竹隊長はつらそうだった。もちろんミートゥー。私もつらい。予想外に断るというのはむずかしいんだ。ちょっとだけ考えてみる。十三番隊の私。相変わらず書類仕事はへたそうだ。三席のお二人にあきれて怒られながら、でも浮竹隊長にはきっとフォローしてもらって。任務は今以上にばりばりこなす。浮竹隊長の下で、あの真っ白な中にぽかりと浮かぶ十三を支える私。
…いや誰だそれ。
びっくりするくらい誰かわからない。なんだか想像の中の私の顔は、いつの間にかきりっと凛々しいかんじの人に変わっていた。ゆっちゃんあたりに見せてやりたい、彼女ならものすごく勢いで別人説を肯定してくれるはずだぜ。…でもそれがこれからの私になるのだ。なぜなら、異動の書類提出〆切りは明日だから。けがが悪化してしばらく入院していたせいで、めちゃくちゃ時間がなくなってしまったわけだ。…ちなみに今も四番隊を抜け出してきているなんて、口がさけてもいえない。


「浮竹隊長」
「ん?」
「…あの、これから」


どうぞよろしくお願いします。こんないいひとを困らせるわけにはいかなかった。頭を下げる、床にこすりつけないでいい頭の下げ方なんて初めてだ。これが、これからの私のはじめの一歩なんだよな。畳のい草がやけにはっきり見えたはずなのに、なんだか少しだけにじんだ。


「隊長!お客さんですよ!!」

「ああわかった!すまないな名字、来客だから行かなくては。わざわざありがとう。こちらこそ頼むよ」
「は、はい」
「その菓子、食べていっていいからな」
「あっありがとうございます!」


にこ、と笑う隊長に頭をぽふぽふなでられる。日番谷隊長になでてもらう方がいいなあなんて贅沢、三席のお二人の前では言わないようにしなくちゃ!最近の私は人間関係にも気をつかえるハイスペックぶりなのだ。ふふん。空元気なんかじゃない、よ。おかしの中から見つけた甘納豆をほお張った時、よく知る霊圧を隣の部屋から感じた。
次の瞬間、気づいたら私はぴったりと壁にはりついて、雪原のうさぎ並に耳をすませていた。





101205

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -