日番谷隊長は特におどろく様子もなく私を見ていた。きれいな目に、ととのった顔。かっこいいなあなんてほんとう今さらだけど、そう思ってしまうのは隊長が大好きだからで、つまり仕方ないことなのである。


「…名字」
「はっはいっ」


きた!びくっと肩が震えてしまってなんだか情けない。つ、ついにここまできてしまった。私はもう逃げることなんかできないし、逃げるつもりも、ない。…い、いちおう。
日番谷隊長は私から視線をそらさなかった。一昨日と重なる。隊長の真っ白な羽織りのすそが、風をうけて少しだけふくらむ。窓、あいてたんだ。少しだけそちらをみた瞬間、ぱしりと私の手首をつかむ手があった。もちろん今この部屋には二人しかいなくて、一人は私。急に距離が近くなって、私の心臓はバンジージャンプしたんじゃないかってくらい大きくはねた。


「………この間は、悪かった」
「や、あのっ」
「すげえ動揺した。お前はすぐいなくなっちまったし、どういう意味か本当にわからなかった」
「…はい」
「そういう意味で、間違いねえな?」


はい、と返事をすると日番谷隊長はすっと目を細めた。ち、ちち近すぎてこれ以上は見てられない。ちょっとだけばれないように視線を外す。だけどすぐにおい、と呼ばれてそれもできない。逃げないって決めたのに、逃げたくてしょうがない。でもだめだ。絶対逃げたらだめだ。


「時間が欲しい」
「…え」
「お前は手のかかる、でも何事にも一生懸命取り組むかわいい部下だ。だけどそういう風に見たことはねえ」
「は、はい…」
「この間、言ってくれたろ。好きだって」
「……はい」
「嬉しかった。真剣に考えてくれたお前のために、ちゃんと返事がしたい」


だから時間が欲しい、という日番谷隊長は、きらきら朝の光りをうけて本当にかっこよくて。ああ、私このひとを好きになれてしあわせだなあと思った。どういう結果になっても、今なら怖くないと、思う。返事をもらって泣くことになっても、そりゃ傷つきはするけど、絶対日番谷隊長を好きになってよかったと断言できるだろう。むしろ自慢できる。十三隊中に…や、それは無理だはずかしすぎてもう働けなくなるよ。でも、親しい人たちには絶対言える。胸はって、言える。


「隊長」
「あ?」
「なんか仕事、きてませんか?」


すごくしあわせだなあ、なんて思いながら笑うと、隊長も少しだけ、あきれたように笑った。
すぐに山のような書類を渡されて、隊長に心配されながらもなぜか強がって押し切り、仕事を始めるとなぜかその時になって完徹の疲れが出て、居眠りをして、ゆっちゃんに呆れられながらも手伝ってもらう。で、隊長にはまた飲んだのかって怒られる。そんな日常が、戻ってきた。小さなとげみたいに、異動という言葉をひっかけたまま。





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