心臓がやたらにうるさい。瞬歩を使っても、それでもまだ遅い気がしてあせりまくる。十番隊隊舎に入ったとき、誰かに後ろから呼び止められたけどスルー。いまは早く執務室にいかなきゃ。さすがに隊舎内で瞬歩はできないから、今度は足でばたばた走る。まだ隊士の人はぱらぱらとしかいないし、間に合うかもしれない。


「っ失礼します!」


ノックもせず扉を八つ当たりかってくらい勢いよく開けた。どうか隊長が来ていませんように!急に止まったせいか、頭がくらくらする。酔いは完全にさめていた。心臓の音だけがただやたらうるさく聞こえる。つむっていた目をおそるおそる、あけた。
日番谷隊長は、まだいない。
よかった間に合った…!あとは辞表を回収して、隊長がきたら少しだけ話をさせていただこう。うまく話せるかわからないけど、今度はちゃんと落ち着いて言いたい。異動うんぬんはひとまず置いておいて、日番谷隊長にいいたいことがあるんだ。机の上に手を伸ばす、けど。あれ辞表…ない?


「っこンのおおばかやろう!!!」


瞬間、きいいんと鼓膜を揺さぶる声。聞き慣れた、けどそれにしては大きい声。私の後ろから聞こえたそれに、いつかのようにぴんっと背筋が伸びた。手に力がこもる。だって発生源は。


「ひつがや、たいちょう…」


あれからまだ全然日にちはたってないのに、二、三日会わないなんてざらにあったのに、なぜか今はうれしさといろいろが込み上げてぐちゃぐちゃになる。会えたうれしさと、会えなかったさみしさと、隊長がやっぱり好きだって気持ちと。
隊長はものすごく怒った顔をしていた。つかつかと近づいてきた隊長は、私の目の前に一枚の封筒をつき出した。そこには辞職願、ときったない字で書いてある。


「どういうつもりだ」
「そのままです」
「…やめんのか」
「やめません。だからそれ、取りにきました」
「………何考えてるんだよ」
「このままやめるのはいやです。昨日の自分に会ったらはったおしてやりたいですね」
「…これは返す。以後軽はずみな行動は控えるように」


隊長は相変わらず眉間のしわを濃くしたまま、私に向かってその封筒を放って私の横をすり抜けた。ひらひら風を受けて不安定に飛ぶ封筒に手をのばして、ぎゅっとつかむ。辞表願なんていらない。字きったないの、なんて昨日の自分を笑いながら、その封筒のど真ん中を破いて二つにした。びりびりびり。音にびっくりしたのか机の前に立っていた日番谷隊長が振り向く。


「隊長、好きです」


一昨日の自分に会ったら、よくない頭で無駄なこと考えんなよって肩を叩いてあげたい。飲み明かしたとは思えないくらいすっきりした頭で、私は日番谷隊長に好きだと言った。





101203

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