「しっかしろくでもねえ男だなあ」


少し空が明るくなってくる中、私と阿散井副隊長の仲はどんどん深まっていた。すっかり意気投合。相変わらずちびちび飲んでる副隊長だけど、完全に酔ったみたいである。私は泣き止んだ代わりに、べろんべろんに酔っ払っていた。


「どういう意味かなんて一つしかないだろーが!」
「そおだそおだー!」
「男の風上にもおけねえ!」
「そおだそおだー!」


力いっぱいぐっと拳を突き出す。阿散井副隊長のさっきまでのクールさはどこにいったのか。きっとお酒に分解されたんだな!なんてかしこいことを考えながらまたお酒を飲んだ。なんだか無性に腹が立ってきたぞ。乙女に対していう言葉がそれか!がつん、と机にこぶしを叩きつけてやると、うーんという声が聞こえた。


「うるっさいわね…ん、もう朝?」
「日本の夜明けぜよおおお!!!」
「イエスウィーキャン!」
「意味わかんな…てかうるさいわよ…」


私を見るなり、乱菊さんにごんっと手のひらでおでこをつかれた。油断していたから、勢いよく後ろにすっころぶ。乱菊さんはだるそうに髪をかきあげてから、店内の時計を見上げた。それから、今度はぶっ倒れている私の襟首を掴んでがっくがっく揺さぶり、あっやばい吐く吐く吐く!!でます、奴らがきちゃいますううう


「あんた、遅刻するわよばか!」
「いいい吐く吐く乱菊さん吐くううう」
「怒られるわよ!早くいきなさい今から急いで部屋帰ってシャワー浴びてとりあえず酔いを覚まして、それから」
「今日は、いいんです」
「はあ?また隊長に怒られたいの!?」
「仕事放棄しました」
「ちょっ…さぼる気?」
「ちがいます」


乱菊さんの私を揺さぶる手が止まる。大きくてまつげの長い目が私をのぞきこんできた。近い。後ろ手にぎゅーっと阿散井副隊長の死覇装をにぎってみる。一夜を飲み明かした仲間。私はその存在に背中を預けることを決意した。


「私、辞表だしてきました」


私がくちびるを動かし終わった瞬間、確かに場の空気が凍った。檜佐木副隊長が寝言で何か言って、寝返りをうった。私はただ副隊長の死覇装をにぎる手に力をこめてみた。
決めたんだ。ばかはばかなりに、あほはあほなりに。隊長が帰ったあと、こっそり辞表届を机の上に置いてきた。異動の理由を聞けたら、隊長が来る前にでもいって回収してくるつもりだった。だってそんなことも聞けないなら、もう一回日番谷隊長にぶつかることなんて到底むりだ。でもおとなしく異動をするのは、もっと無理だ。私は、日番谷隊長の下でしか働けない。好きだからとかじゃなくて、私は隊長としてのあの人にも心酔していて。隊長としても男の人としても、日番谷隊長以上のひとなんか私にはいないんだ。ばかは、一途なんだ。たくさんなんて知らないから、その代わりに誰よりも、誰よりも誰よりも誰よりも。


「…何、それ」


乱菊さんがつぶやいたのは、それだけだった。くちびるはわなないていて、ようやく絞りだした小さな言葉のようだった。なんだか怖くなって、さらに手のひらに力をいれる。乱菊さんが、怒っている。初めてみた。怒らせてしまった?私が掴んでいた阿散井副隊長の死覇装も、その持ち主に腕を振り払われてあっけなく手から抜け落ちた。


「あんた、逃げるの」
「ら、らんぎくさ」
「隊長に告白、したんでしょう」
「……なんで知って」
「今すぐ行きなさい。隊長のとこ」
「で、ですが」
「手遅れになりたいの?」


私は、なってほしくない。
力強い言い方に、圧倒される。乱菊さんの言う意味がよくわからなくてなんとか言おうと思うんだけど、金魚みたいに口をぱくぱく動かすことしかできなかった。そんな私の襟をぐいと掴む手が一つ。いや、乱菊さんにも捕まれてるから今二つ。く、くび苦しい…!


「おい名字」
「あばらい、ふくたいちょ…!」
「んな話聞いてねーぞ。さっさといってこい、ばか!!」


瞬間、私の視界はぐるんと盛大にまわって店の外に放り出されていた。口の中が砂だらけでじゃりじゃりする、けど、私の中身のほうが今は大変だ。また心臓がどきどきし始めた。怠け者から、働き者に。なら、持ち主が怠けているわけにはいかない。


「じっ辞表取り消してきます!!!!」


私はやっぱりばかだ。だから逃げるなんて頭のいいこと、できっこないのに。あほの名字?言いたいなら言えばいい。ぶつかるしか知らないのが、私なんだ。





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