異動。ふられた上にそんな事態がくるなんて思ってもみなかった。泣きっ面にハチもいいところ、泣きっ面にタコ殴りレベルだ。神様はそんなに私がきらいなのかと。…いや、日番谷隊長にきらわれてるのかもしれないけど。


「乱菊さん、パーッと飲みにいきましょう!」


そんなことを言ったのは、今から数時間前である。自殺行為だとわかった上での行動である。明日も仕事かもしれないというのに、私はがっつり飲みまくっていた。そして、いつからかぐずり出して泣いていた。
乱菊さんの飲み仲間であるらしい檜佐木副隊長と阿散井副隊長の前だというのに、遠慮なく泣く私。そして、つがれたお酒をがぶ飲みしていた。こんなに飲んだのは久しぶりで、泣いたのも久しぶりだ。今飲んだお酒を全部目から流してるんじゃないかってくらいだ。なんか飲んでない阿散井副隊長はドン引き状態である。


「名字、飲みすぎじゃ…」
「そんなのしりません」
「いやいや知らないじゃねーだろお前、明日の仕事に響いたらどうすんだよ」
「しりません」


ぎぎぎ、とちゃぶ台にツメをたてる。ぐしぐしと泣きじゃくりながら、私はこのちゃぶ台と一つになってしまいたいと真剣に考えた。そしたら、異動ともこの気持ちともおさらばだ。私はみんなに使われ、時には食べかすをこぼされ、叩かれ、そうして古びていくのだ。あっでも吐くのだけはかんべんしてください。
阿散井副隊長は大きなため息をついて、そうかよとまたちびりとお酒を飲んだ。呆れられてしまった。仕事も放棄、上司相手にこの態度。だってあほの名字だもん、仕方ないじゃん。ため息なんてどれだけつかれたかわからないし。いっつも迷惑ばっかりかけてたし、怒られてばっかだし。だけどいっつもなんだかんだで褒めてくださって。


「阿散井副隊長…」
「あ?」


檜佐木副隊長と乱菊さんはもう酔い潰れて寝ている。阿散井副隊長は違う隊の人だし、少しくらいならいいよね。ほんとは乱菊さんに異動の話について聞くつもりだったけど、結局こわくて聞けなかった。異動の理由なんて聞けるはずがない。だから私はもう、終わり。聞けなかったから、代わりに少しくらい話してもいいよね。最後なんだから。もうこの先話すことなんかないんだから。


「阿散井副隊長は、女の子に好きですって言われたらどうおもいますか…?」
「は。…いや、そのままじゃねえのか?」
「どういう意味だって、いわれたんです」
「………誰に」
「どういう意味って、そんなの、一つしかないですよね。それこそどういう意味だって思いますよね」


口を開くと、連動してるかのように涙がでてくる。お酒が入るとどうやら泣き上戸になるらしいよ、私は。うーとくちびるをかんでしゃくりを堪えていると、阿散井副隊長の大きな手が頭の上にぽん、とおかれた。それから、犬かなにかにするみたいにわしゃわしゃされる。またじわりと涙があふれて、阿散井副隊長このやろうと密かに思った。


「事情はよくわかんねえけど」
「すみま、せん」
「お前が今混乱してんのと同じくらい、相手も混乱してんのかもしれねえぞ」
「…え」
「酒の力ってすごいよな。なんでもできる」
「きゅ、急になんですか」
「もう一回いってみたらどうだ?そいつのところによ」


阿散井副隊長が、またちびりとお酒を飲んだ。私の頭の上の手のひらはまだわさわさと髪をなでている。そういえば一回、日番谷隊長に頭をなでてもらった記憶がある。うれしかった。ゆっちゃんに気味悪がられたくらいにやにやしてた。好きだなあ、なんて今さらだけども。私はたとえ地球が自転をやめて上下運動を始めたって、ずっと隊長が好きなんだろうなあ。ちゃぶ台にぎいぎいたてていたツメは、なんとか割れずに私の指先におさまっている。もう遅い。





101128

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -