職場恋愛があまり良しとされない理由を身をもって体験してるなう。
あんな私情でまさか仕事を休むわけにもいかず、私は元気に出勤するしかなかったりした。それにサボりなんかして今隊長に怒られたら、それこそ立ち直れない。だけど隊長が席官室にいらっしゃったら私まじどうしよう。


「名字十席、どうかしたんですか?」
「っなななんでもないです!ごめんなさい昨日調子乗って完徹したせいかな!!」
「そうなんですか?」
「はい!!!ランニングハイも通り越し真っ白な灰状態で!!」


変なものでも見るような目で私に向ける十一席。でもすぐにそんなもんか、みたいな顔で自分の仕事に戻ってくれた。ラッキー。ふう、と息をついて給湯室に逃げ込む。完徹なんてうそだし、私に寝ないなんて選択肢はない。まあ昨日は完全にふて寝だったことは…み、認めよう。
今さらになって泣きそうになる自分はばかだ。そもそも泣くなんて、隊長と少しでも釣りあえると思ってたってことなわけだし、そんな自分がはずかしい。日番谷隊長はみんなの憧れ。かっこよくてやさしくて、それはもう雲の上の、下手したら大気圏の向こう側の人なのである。酸素なんかなくたって生きていけるような、そんな人なのである。私が好きになったのは。


「うぐ…」


ぽた、と机にたれる水滴を、あわてて手でぬぐった。あほの名字。その言葉が今になって初めてひどくざっくりと胸に突き刺さった。
かわいくない泣き声だなあ、きっと顔もかわいくないんだろうなあ。ネガティビティな私はぐずぐずと鼻をならしながら流しに背中をつけて座り込んだ。死覇装にさらに濃い染みがおちる。くそう、なんなんだ。


「隊長、もしかしてもう名前に話しちゃったんですか!?」


心臓が宙返りを決めたんじゃないかってくらい勢いよくはねる。い、今の乱菊さんの声だ。ていうか隊長って…?いやまさか。隊長がここにくるなんてまずありえないし、そんなわけ。
だけど霊圧が近づいてくれば、そんなのはもう否定できなくなる。この霊圧は間違いなく日番谷隊長の。涙なんか引っ込んで、ぴったりと流しに背中をくっつけて小さくなった。ば、ばれたらどうしよう。しかもちょうど私の話だし、これって盗み聞きとしてはかなりレベル高いんじゃ。


「まだ正式に書類は来てないんですから、異動の話はしちゃだめですってこの間」
「まだしてねえよ」
「え。じゃあなんであの子あんなにしょげて…昨日執務室から出て以来ですから、てっきりそうなのかと」


なあんだ、と乱菊さんの声がする。隊長が当たり前だ、と返すとじゃあ私ちょっと約束あるんで!と足音の遠ざかる音。あっまた乱菊さん逃げたな。すぐに隊長の怒鳴り声がして、それと共にもう一つの足音も遠ざかっていった。
だけど、私は給湯室の流しに背中をはりつけたままぴくりとも動けなかった。そんな話、聞いてないのに。異動。頭の中でその二文字が切れかけの電灯のようにちかちかしている。





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