隊長は相変わらず仕事熱心で、その速さはもはやアートである。いや嘘ですけど。アートではないけど、さらさらーっと筆が流れていくのを見ると、やはり感動はするのである。
まあそれは生き残るための術なんだろう、と最近私は気づいた。
だって乱菊さんの華麗なサボりは、ほんとうにアートだから。鮮やかに何かと理由をつけて、時にはさりげなく、時には書類を届けにきた人をつかまえてお茶、それはもうさらりと仕事から逃げる。だけど仕事はいくらでもくる。だから乱菊さんにまわってきた仕事も、きっと仕方なく隊長は一人で終わらせてるのだ。それで早くなったにちがいない。


「たいちょう、お茶です」


それに気付いて以来、私はお茶をいれるときには日番谷隊長の分も入れるようにしている。いっつも茶菓子も運ぶのだけど、それはいつも乱菊さんが食べてしまってる気がする。その時だけ現れる乱菊さんはもうさすがとしか。
隊長は顔をあげて私を見ると、悪いなと言って湯のみを受け取ってくださった。それから私も茶菓子のお皿を机のすみにおく。いつもならお茶をまっ先にすするのに、今日はなぜか茶菓子をぱくり、とまっ先に口にいれた。あ、やっぱり。


「甘納豆すきなんですね」
「まあな。これ、あの店のだろ」
「はい!お好きなんだろうなあって思いまして、また買ってきたんです」
「ああ。ま、つまみづれえけどな」
「…配慮不足ですごめんなさい」
「いや、有り難う」


またぱくん、と隊長が甘納豆をつまんだ。それからお茶をすすって、また。…うん、甘納豆大好きなんですね隊長。ぱくぱくと食べる日番谷隊長は見た目相応で、言っちゃ悪いけどかわいい以外のなにものでもない。うん、すごく和みます。


「日番谷隊長って甘いもの苦手なんですか?」
「あ?」
「いや、普段もってきても食べていらっしゃらないっていうか」
「あー…好きではねえ」
「やっぱり?」
「…悪いな、いっつも茶菓子もらってんのに。甘納豆は好きなんだが」
「なるほど。じゃ、明日からおせんべいか甘納豆にします!」
「ああ、頼む」


隊長はまたぱくり、と甘納豆をつまんだ。よかった。明日からは甘くない茶菓子にしよう!この間の非番の日に偶然でも会えて本当によかった。楽しかったし、何より会ってなかったら隊長の苦手なものを出し続けていたところだ。…ん?もしかして乱菊さん、私に気を使って茶菓子を食べてくれてたんじゃ…。いやいやまさか。だけど、そんな気もしなくもない。やはりそこは副隊長なのか。ごくりと喉をならす。隊長はまた流れるように筆を動かしはじめた。…ああうん。
乱菊さん、もしそうだったとしてもひとまず仕事しませんか。





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