ここに新入りがきたことはしってる。

それがニノの恋人だってことも、もちろんしっている。



草がざわざわと走る風に合わせて揺れる、この風はきっとニノのあのきれいな金髪をやわらかく踊らせるんだろうなあ。私はいつか切った髪を思って、ほうっとため息をついた。
柔らかな草の上しか歩かないから、靴はもうずっと向こうのほうでぬいでしまった。橋のすぐそば。私はあそこには近づかない。近づきたくない。聞こえてくる会話はもちろん、歌なんて聞きたくない。
新入りの子が来てから私はずっとこの調子だ。よくないのはわかってる。だけど我慢はもうするだけした。これ以上は、みじめになりそうで怖くて。あの、二足揃えられた靴に気づいてくれるかな。


「…私ちっちゃ」


ぽそりと呟いて笑うけど、なんていうかあんまり笑えない。あ。つま先がほんのり草色になってる。傷つけるつもりはなかったんだけど、やっぱり茎を折ったりしちゃったのかもしれない。ごめんね。悪いことしたとは思うけど、私は人間以外ともうまく接せないのかとそんなことばかりぼんやり考えてしまった。
ぱしゃり、と聞き慣れた水の音。
思わず私はかたくなってしまって、そんな自分はやっぱりちっぽけな奴で、ぎゅうとこぶしをつくって俯いた。


「ナマエ」


耳にひどくやさしく響く声。
おだやかで柔らかくて、私なんかとはまるで違う彼女そのもの。愛される彼女の【キレイ】なもの。私は彼女の【キレイ】な部分をたくさんしってる。すきとおるくらいに、きれいな女の子。
大好きなのに、大好きだといいたいのに、私はそんな彼女にむき出しの嫉妬ばかりぶつけてしまう。かないっ子ない相手に挑めるほど、私はきれいじゃない。


「ほら、靴忘れてるぞ」
「……違うから」
「はかないのか?」
「…わざと脱いでるに決まってるでしょ。ほっといていいよ、みんなのとこ行きなよ」
「そうか。わかった」


また、軽やかな水の音を残していなくなるニノ。耐え切れなくなってしゃがむ、近くに生えていた草を握りしめるとぶちぶちと嫌な音がした。違う、ニノのはこんな音じゃない。泣きたくなるのを必死にこらえて、草の色で染まった手を川で洗う。ばしゃばしゃとなる音はやっぱりきれいじゃないし、草の色をやっきになって落とそうとする私はきたない人間だ。目の奥がじんとしびれて熱くなった。





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