少し落ち着いて泣き止んだら、星はうれしそうに笑った。意味がわからなくて眉間にしわをよせると、そこをとんと指で押された。


「泣き止んだな?」
「…もともと、泣いてない」


口からこぼれたのは、かわいげのない言葉。はっとして星を見る。さっきまであんなにちゃんと、素直に話せてたのに。そんな私に、星はけらけら笑った。「おーおー、よく言うぜ」髪をぐしゃぐしゃにかきまぜられて、星はこれっぽっちも気にしてないみたいで。それがうれしかった。星は私をすくいあげるのがうまい。だけどなんともいえない空振り感と複雑さが残る。うまくは、いえないけど。
それがひっかかってなんとなく視線を合わせられなくてそらすと、肩に何かがのる感触。そして嗅ぎなれたタバコの匂い。一応病み上がりだしよー、なんていう星の言葉に思わず彼を見て、肩に乗るぬくもりの正体が星のジャケットなのだと気づいた。とっさに何か言おうと思って口をあけたけど、言葉がなにひとつでてこない。


「ナマエ!!!」


あの、とようやくでた言葉はかきけされた。ばんと私の家のさして頑丈でもないドアの最後の言葉はそれで、がたんと無惨な音をたてて内側に向かって倒れる。え?状況に頭が追いつかない。
ドアの向こうには、荒川の住人がたくさんいた。
完全にかたまった私の首にP子がとびつく。ニノも珍しく目に涙を浮かべてるし、鉄人兄弟もすぐP子の後ろからとびついてきた。ニノも思いついたようにベッドになだれ込んで来る。村長もいつもどおり笑いながら、シスターも腰を屈めながら部屋に入ってきていて、シロさんとラストサムライもいた。ビリーもジャクリーンもドアの外に見えた。完全に頭はまっしろで、私は何一つアクションを起こせなくて。星がおいつぶれてんぞ!と騒いでるのがみえて、確かにちょっとくるしいかもと思った。なのに、笑えてくるのはなぜなんだろう、か。
笑ってるはずなのに、目の奥がじんと熱いのはなぜなんだろうか。


「やっぱり馬鹿なのね」


凛とした声に顔をあげると、マリアが入ってくるところだった。「まり、あ」ようやく口からでた言葉。マリアはくすくす笑って、かつかつとヒールの音をさせながらベッドの側まできた。それから私の髪に指をすべらせて、いつもどおり笑う。


「こんなに愛されてるくせに、何躍起になってるのかしら」


だけどいつもより疲れたような顔をしていた。
そっと、私の首に顔をうずめるP子の顔を見る。クマがあってはれたヒドイ顔。鉄人兄弟はぐすぐす泣いてるし、ニノはクマのある顔でうとうとしていた。部屋中見回す。みんな、疲れたような、寝てないような顔。

私、避けてたのに。
みんなのことあんなに避けて、和を乱すようなことして、もう駄目だって諦めてさっさとしのうとしたのに。


「は、はは…」


口からこぼれたのは涙まじりの笑い声。見られないように、マリアの手をなんとか動く左手で掴んで目にあてた。ひやりと冷たくてきもちいい。


「みんな、ひどい顔」


ばかじゃないの。ばか。ばかばかばーか。だいすき。
ふわりと香るタバコの匂いに、ああばかは私かもしれないなんて思って、あの時のマリアの真意をようやく知った。星だけがすべてじゃ、ない。私には大切な人がこんなにいっぱいいる。星のことが好きな私を好きでいてくれる人がいる。私は心配しすぎだったのかもしれない。さっきひっかかっていたものがするりととけた気がした。ありのままの私を、みんなとっくに知っているんだから。じわりと溢れた涙をマリアの指がぬぐってくれて、私はまた笑った。





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