お腹に星の手が乗っていたから、ほとんど身動きはとれなかった。だけどとりあえず上体だけは起こして、あたりを見渡す。間違えようのない、私の部屋。変にうるさい心臓がいたい。ぎゅ、と心臓のあたりをおさえて深呼吸をしても、変わらずそこはおかしな心音を奏でる。星が私の方を向いていなくてよかった。黄色いその星型をみただけでざわつく胸が、そんなことにたえられるわけなかった。


「………なんで」


もう一度呟いても、何も変わらない。少しだけ手を動かして、星のシャツをつかんだ。星にふれる勇気は、ない。でも、これだけですごく胸がいっぱいになるのはなんでなんだろう。気がついたら涙が止まらなくて、嗚咽を殺すために口をおさえて目をかたくつむった。なんでか、涙が止まらないんだ。


「お、起きてる起きてる」
「………そん、ちょう」
「やっとかー。お前なあ、寝ぼけてあんなとこふらふら昇んなよなー。あぶねえっての」


私の家に何食わぬ顔で入ってきた村長は、そのまま私のベッドのすぐ横にきて星をのぞきこんだ。「お、寝てる」いつもどおりに話す村長に、いそいで涙をぬぐう。村長は星に手近にあった毛布をかけて、それから床に座って私を見上げた。


「返事」
「…、え」
「"寝ぼけて"、あんなとこ昇るなよ」


ぴく、と体がちいさくはねた。村長は怒るでもなく、呆れるでもなく、私をじっと見ている。やっぱり、夢なんかじゃなかった。じゃあなんで私は生きてるの?何も言えなくなった私を見かねてか、村長がまた口を開く。


「俺が早起きだからよかったけどよー、もし俺が起きてなかったらしんでたんだぞ」
「……はい」
「みんな超心配してたんだぜ?」
「………うそだ」
「うそじゃねえぞ。交代で看病してんだから。そいつにいたってはそこから動かねえしよー」


いろんな作戦で動かそうとしたんだけどよ、俺を動かしてえなら核でももってこい!!なんていうしよー、シスターはマジでもってこようとするしよー、もうほっといた。
村長はそうぺらぺら喋って、私が何かいう前に立ち上がってしまう。あ、というと目の前に人差し指が突き付けられた。反射的に身を縮こまらせる私に、村長はにっと笑った。


「騒ぐと起きるぜ」
「……はい」
「それと、お前は"寝ぼけて"たんだ」
「っちが」
「何もちがわねー。お前は寝ぼけてた。それだけだろ?」


そんちょう。そう、全部の心の声をのせて呼ぶと、村長は水掻きのある大きな手で私の頭をぽふぽふと撫でた。泣きそうだったのが、驚きでひっこむ。さっきと違って立っている村長は見上げなくてはならなくて、視線をあげるといつもどおりの笑顔の村長がいた。


「ったくよー、お前はほんと手がかかるよなー」
「ごめんな、さ」
「なんで謝る」
「………だってわたし」
「お前はお前じゃねーの?」


ぼた、り。
今度こそ涙があふれた。こぼれそうになる嗚咽を、口を手でおおって胸の奥に押し込む。村長。たぶん、この人ははじめから全部わかってる。そんな特別になにか話したわけじゃないけど、きっと見守られていた。私のきたない部分もなにもかも知ってる。今私にふれているのは、そんな手のひらな気がした。
どうしてもお礼がいいたくて、でも言えなくて、はくりと空気をかむ。それを見た村長はキンギョみてえだな、とけらけら笑った。


「言いたいことがあるなら、そいつに言ってやれよな」


村長は最後にぽん、と私の頭をかるくたたいて部屋から出ていった。そいつ。村長が視線でさした方、今私の部屋にいる私じゃない人間。それに視線をやると、ぴくりとお腹の上の手が動いた。
交代しないでずっとここにいるなんておかしい。だって最近星のこと避けてたし、彼には理由がない。ニノもここにはいない。いるのはきたなくて卑怯な私だけ。
なんで星が、私のところにいるの。





110324

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