私のいいところって、なんだろう。
めずらしく家の前でしゃがみ込んで考えてみる。今日は日曜日で、ミサがあるからこそできること。いつもは見つからないように、朝早くにここを出たきりみんなが来なさそうなところにばかり行っているから、こうしてみんなの話し声が聞こえる距離にいるのは久しぶりだった。
あの和に入らなくなったのは、たぶん髪を切ったころ。みんなにどうしたのって聞かれたくなくて、体調が悪いふりして家にこもった。髪をのばすことをばかみたいにいいふらしてた自分を嫌悪しながら。ラストサムライに本当にいいでござるね?と聞かれたとき、一瞬だけ返事が遅れた自分。


「…自己嫌悪ばっか」


ちっぽけな私。いいところ、なんて見せたくてもみつからない。私のいいところって何?
すぐそこで、知らない男の人がニノさん!と呼んでいるのが聞こえる。星の割って入る声。それから、続く言い合い。きっとあの男の人が新入りのリクルートだ。新入り、というには時間が経ちすぎてしまったけど。
私のいいところ。リクルートさんを避けてニノを避けて星を避けて、毎回ミサに来るよう声をかけてくれるシスターを断っているような私に、果たしていいところなんてあるのか。考えれば考えるほど不安になるけど、でも、星の言葉を信じたい私には、考えるのをやめることもできなくて。


「ナマエ」
「…シス、ター。びっくりした」
「珍しくお前の気配がここからしたからな。ほら、お前の分のクッキーだ」


気づくと目の前にシスターがいた。いや、シスターというよりは彼の真っ黒な服が見えただけで、座っている私が彼と目を合わせるためには膝を折ってもらうしかなかったけど。私なんかよりずっと大きなシスターは、そうして目線をそろえるとクッキーの入った袋を渡してくれた。おいしそうなクッキー。すぐに袋からだして口に入れる。彼は、何がおもしろいのかじっと見守ってくれていた。うん。なんだかんだでシスターはいつもみんなの輪の中にいるから、こうして一対一で向き合ったのは久しぶりかもしれない。


「そろそろリクに会ってやれ」
「…うーん」
「あいつは何もしてないだろうが」
「でも、彼が来てから星はつらそうだよ。そんな星を見るのは、私もつらい」


シスターは、珍しくゆるい動作で私を見た。見て、それから目を細めて、逸らした。「他人の痛みだろう」静かな声は、重みをもってゆっくりと私の中に沈んでいく。確かに他人だ。他人だから、なんだ。私には、彼の痛みほど痛いモノはない。


「でも、私の痛みだよ」


そうゆっくり言うと、シスターは何も言わなかった。少しずつ、あの騒がしさがこちらに来ているのがわかる。立ち上がると、シスターに手を引かれた。だけどすぐに解いて、下流に向かって歩きだす。


「やさしくないふりをするなら、最後まで貫け」


ふりじゃなくて、やさしくないの。もし私がやさしかったら、真っ先にそのやさしさをあなたに見せたい。見せて、そして、あの子より愛してほしい。なんて考える私が、やさしいわけ、ないじゃん。夢見るだけばからしい。私はきたない。とげとげの、人を傷つけてばかりの存在。このままじゃいけないのは、とっくのとうにわかってる。





110202

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