「…ニノのとこ行けばいいじゃん」
「おー……」


ゆらゆらゆれる水面を眺めるなんて、星には似合わないと思う。真面目に。最近こんなことがよくある。前に笑わせてみろって言ったのが効いたらしい。ばーか。こうして一緒にとなりにいられるのは、星と話していられるのは、すごくすごくうれしい。だけどそれとこれじゃ話が違う。
反応があまりにも薄いからどつくと、星はふらりと揺れて私を見た。「なあ」星はゆっくり瞬きをした。


「お前さあ、もしかして好きなヤツいる?」
「……は」
「なんか…うん、波長があう。その顔とか、マジ見たことあるっつーか」


言うだけいって、星はわりとすぐ頭を抱えて小さくなった。あー悪ぃ、ぽそぽそ聞こえてくる謝罪は聞かないふりして、私も膝を抱えて小さくなった。意外に鋭いじゃん。ニノ以外見てないと思ってた、なんてやっぱり私女々しいなあ。
足の先が見えて、土のついたスニーカーも見える。私は星みたいにきれいじゃないから、ただ一緒にいるだけでしあわせにはなれない。ほんとはニノと一緒にいたいんだろうなって、ニノのこと考えてるんだろうなって、そんな暗いことばっかり思い浮かぶんだ。好きなのに、まるで星のこと信じてないみたいで、どんどん自分がいやになる。


「……うん、いるよ」


星は、いつだって自分に素直なんだと思う。好きな歌を歌うことを選んで、まっすぐにニノを想って。だからあんな風に人を好きになれるんだと思う。
そこが星のいいところで、うらやましく思う。だから、ちょっとだけ。誰かを言わなければきっと迷惑にはならない。変わらない。素直に言って、笑ってみる。ねえ素直な私はどうでしょうか?星は顔を上げて、私をまじまじと見た。それからへらっと笑う。


「よかったな!」
「…は」
「おう」
「いや、いるけど思いっきり片想いだし…」
「だーかーらー」


星のその先の言葉は、聞きたいのに聞きたくなかった。だから、なに?片想いなんだってば。君に、星に。なにか言われたら私の心臓はもたないよ。小さなかすり傷いっぱいつけて、かさぶたでふさがって、汚くなっちゃうんだよ。ねえ。


「お前のいいとこをもっといっぱい知ってもらったら、お前に惚れないわけがねえだろ?」


引っかき傷みたいな痛みがひとつ、私の心臓に落ちる。ねえ星、私のいいとこをもっといっぱい見せたら、全部君に見せられたら、その時君はちょっとがんばった私の頭を撫でてくれますか。わからないから、怖いんだ。苦しいんだ。宇宙に飛び出したアポロ11号は人じゃないけど、もし人だったらきっと飛び立てはしなかったと思う。そのくらい未知は、こわい。どうしようもなく。君の視界に、入りたいのに。





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