私が荒川に来たときから、すでに星はニノのことが好きだったんじゃないかと思う。
私もニノを見た瞬間きれいだなあと思ったし、べつにそういう星の恋愛にとやかくいうつもりはない。好きならたとえ報われなくたって好きでいていいと思う。これ、半分は私にも言ってるけど。
「あ、新しくきたやつだろ」
まだ慣れてもない環境で完全にテンパる私に、星はいきなり一曲演奏してくれた。歌詞はすごく適当だし、わけわかんないし、だけど私のためににこにこしながら演奏をしてくれてるのがうれしかったのを覚えてる。まあ、それが星の仕事なのも、にこにこしてたのは歌が好きだからなのも、そういうのをわかった今とは違う真っ白な私にとっては、だけど。


「早く告白すればいいのに」
「ジョーダン」
「そんなつもりはないけど?ここは駆け込み寺じゃないの。早くカタつけてほしいだけ」


マリアは手厳しい。私の気持ちを知る唯一の人だからやさしくしてくれたっていいのに、手厳しい。新入り君が来てから私は下流の方と、マリアの家ばかり入り浸っているから当たり前か。でもテーブルにつっぷしてシュガーポットのスプーンをぐるぐるする私を怒らず、おいしそうな紅茶を出してくれる辺りやさしいのかもしれない。
マリアはじい、と私を見たあとその細い指を伸ばした。私は動かない。マリアの指は、私の首で揺れるショートカットにふれた。


「何も、切らなくてもよかったのに」
「そう?似合わない?」
「そうじゃないけど。私に憧れてのばしてるって言ってたじゃない」
「まあね」


目を閉じる。マリアの指は私の髪をやわらかく梳いている。「私のは、マリアやニノみたいにきれいじゃないからね」ぽたり、唇からこぼれ落ちた言葉に、マリアの指は止まった。だけどすぐにまた動いて、やさしく梳いてくれる。


「比べるものじゃないでしょう、私はアナタの髪、好きだった」
「…ありがとう」
「……ねえナマエ」
「星は、似合うなって言ってくれたよ」


マリアの指は今度こそ止まった。ごめんね、こんなきたない私で。マリアのやさしさに応えられない私で。





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