これだからシズちゃんはいけない。


公共物をひょいひょい投げるあの化物には、デリカシーってものがない。
それを言うと、お前もだろうがああああああ!と浮き上がった青筋をさらにくっきりとそのこめかみに浮かばせる。プラスゴミ箱攻撃。ゴミがかかるから嫌なんだよね、これ。
意味のない鬼ごっこだって?そのくらい気付いてるよ、でもね、シズちゃんが気付いてなければ俺は逃げなくちゃいけない。だって一方的に俺がやられるなんておかしいでしょ?
そうして喉の奥でくつくつと笑おうとしたら、いい加減俺の体は限界だったらしくひゅうと情けない音がした。あーあ。



「殺す殺す殺す!!なんで手前は何回追い払っても来るんだよこのノミ蟲がああ!」
「それはシズちゃんが俺を殺してないからなんじゃないかな?」
「じゃあ今日ここで殺す!!!」



まったく、困るなあ。
俺の目的地はもうすぐそこの公園なのに、なんであと少しのところで邪魔するんだろうねシズちゃんは。こういうところがどうしようもなくシズちゃんだと思うから、それこそホントに死んでほしいな。
わざわざ新宿から交通費かけてきた俺をなんでそんなに無下に扱うんだろう。ちゃんとした目的をもってきた俺を追い払う権利なんて、池袋の喧嘩人形サンには少なくともないよねえ?
まあ彼も、俺と同じ目的だろうけど。



「しーずちゃん、キレ過ぎだってカルシウム足りてないんじゃない?」
「手前がいなけりゃ足りてんだよ!!」
「怖いなあ、俺だって仕事上池袋に来なくちゃいけないことだってあるんだよ。来るな来るなって言われても、ねえ?」



にしても、皮肉。
二人とも今日ここにきたということは、二人とも相変わらず彼女を求めているということだ。過去にすがっている方がまだマシなのかもしれないね。

俺たちの喧嘩を、誰よりも嫌った彼女。

そしてそんな彼女とシズちゃんと俺の三人で出かけようとした、俺たちの不仲を少しでも解消させたがった彼女がもちかけたこの話を、彼女自身が駄目にしたこの日。
その日だけは、その日一日は絶対に喧嘩をしないと決めていた。
今じゃ、必ず喧嘩をする日。
こうやって顔を合わせてしまえば喧嘩は必須、つまり彼女を慕ったゆえに、慕っているゆえに起こる衝突。


ああなんて皮肉な話だろうね。

こんな矛盾な中にいるのもなかなかおもしろいことだと近頃考え出した。
やっぱり俺も人間だからね、矛盾の中でしか生きられない。
そうこうしているうちに当たったら確実にゴートゥーヘヴンしそうな何かが真横を通過した。超高速。怖っ!
逃げてるだけじゃ駄目みたい。本日何度目かわからないため息をついて、ある意味自分にも返ってくるセリフを口にした。



「シズちゃん、今日で六年だっけ?」



ぴく、とシズちゃんが反応した。
わかりやすいなあ。
少しだけ止まった彼の動きを見逃さず、公園をちらりと横目で見てから走り去った。

六年前の、待ち合わせ場所。

疎らなその人込みを一瞥して、その奥にいたらどんなにいいだろうという人物を想像して、自嘲した。
今もし会うことができても意味などない。
そのくらいわかっているのに。







平和島静雄は、ただ待っていた。

この行為に意味を求めたりはしない。
この日、この場所にいたいだけだ。



「あー…」



煙草の煙が空に吸い込まれて行く。

先ほどまでいたノミ蟲のことを考えなければ、それなりに穏やかな休日を過ごせていると思う。
あのノミ蟲さえいなければ。
思えば高校の頃から嫌な奴だったが、今の奴に比べたらマシだったかもしれない。
歯止めがないからかもしれないが。

空はやはりどこまでも青い。
それでも、その実吐き出された煙に汚染されていっているのだろう。

いい天気だ。



まさか同じ空を、追い求めている人物が見ているなんて欠片も思わないが。







10.04.24
うまくいかないー 

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