「もしもし、新羅君?」


絶対いっぱいあるんだろうなあと確信しながら家中探すと、案の定携帯電話が二、三個出てきた。コートのポケットと、戸棚のマグカップの中と、デスクの一番上の引き出し。たぶん一個くらい借りてっても問題ないだろう。ていうか私なんか一個も無くても暮らせてるけど、臨也君はこんなに無いと暮らせないのかなあ。案外寂しがりやってこと?なんてのは冗談で、きっと学生時代に引き続き危ない事やってるからなんだろう。まったく、困った子だ。
そんなわけでコートとデスクはたぶん彼の仕事に使うものなわけで、イコールそこにある携帯は使うと思う。そこでマグカップの中のちょっと投げやりにも見える場所にある携帯電話を拝借して、散々かけまくっていた電話番号にかけた。


「…え、先輩?」
「うん名前。元気?」
「いやまあ元気ですけど…医者の不養生なんて事はしないから」
「えらいえらい。ちょっと話変わるんだけどさあ、新羅君今テレビとか見てる?よくわかんない芸人が出てるやつ」
「あーちょっと待ってください。…ああはい、出てますね」
「それさあ、今私臨也君ちで見てるんだよね」
「…は?」
「ん?」
「ええと、静雄は?」
「さらわれちゃったの」
「笑えないよ…」


よかったー番号変わってなくて。もし変わってたら臨也君の番号勝手に誰かにもらすことになったかもしれないし、そもそも臨也君やシズちゃんがケガした時に電話できない。何回かけたかわからない電話番号は、その分だけ私たち三人がケガしたということなわけで男の勲章という奴なのかもしれない。
新羅君ははあ、と大仰にため息をもらした後に、「どうするつもりかい?」と聞いてきた。私もそう思う。たぶん臨也君はシズちゃんに連絡してないだろうし、あの惨状の部屋を見てぶちギレたに違いない。ケガしてなきゃいいけど。ごめんね、勝手に玄関なんかに出るもんじゃないね。土足で上がってきたもんなああいつら、自分がやられていやな事はしちゃいけないっていうのに。今度臨也君に身元聞いて土足で部屋中歩き回ってやろうかな。
あ、話が逸れた。
携帯電話を右耳から左耳にあてなおして、今度は脱線しないよう最初に言いたいことを言うことにする。


「セルティって今日空いてる?」
「たぶん」
「じゃあお仕事頼みたいんだけど、いいかなあ」
「えーと…いいって。さすがセルティ優しいんだから!ほんと最高だよ君はって痛たたた!!もう照れっちょ、痛い痛い痛い痛い!」


携帯電話越しの悲鳴に耳を離しながら、キッチンに入ってみる。生活感ゼロ、あまりに整えられた空間にちょっと笑った。臨也君ほとんど自炊してないな、これ。それかあの性格だから片付けたのか、半々かもしくは両方か。
ぎゃあぎゃあ騒がしかった向こうも落ち着いたみたいで、用件を聞かれる。適当に答えながら、頭の片隅でようやくさっき芸人が言っていたギャグの意味がわかった。こんなわかりづらいギャグになんであんなみんな笑えるのかな、私だったら笑わないけどなあ。あれ私だけ?臨也君は笑うのかなあ、シズちゃんは。どうでもいいけど臨也君、冷蔵庫の野菜室ニラしか入ってないのがちょっと気になるよ。思わずくすって笑えて、それがおもしろくてけらけら笑ったら新羅君が向こうで引いたような声をだした。えー、新羅君も絶対笑うと思うんだけど。ていうか頭の片隅は君達の場所だなあ、それ以外考えてもなんにもおもしろくないし。





110425

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