今日は特に秋にも頼まれなかったから、私は通学鞄代わりのリュックを背負って今まさに帰ろうとしていた。
最近お気に入りのCMソングを口ずさみながら歩いていると、グラウンドの方が騒がしいのに気づいた。なんかあったのかなあ。見に来ている女の子たちの間をすり抜け、グラウンドを見る。と、みんながグラウンドの一カ所に集まってるのがわかった。「基山くん大丈夫かな」「心配だね」後ろの女の子たちの会話が耳に入る。基山?基山って、あの?え、基山になんかあったの?基山が心配されるようなことって何があったの?


「とりあえずヒロトを保健室につれてくぞ!」


保健室?となりの女の子が迷惑そうに私を軽く肘でおす、ごめんなさいちょっとだけこの隙間にいさせてください!それもこれも基山のせいだ。できるだけ耳をすませて、みんなの会話をキャッチする。う、聞こえづら。だけど我慢だ。


「大丈夫だから円堂くん。大袈裟だよ。一人でいける」
「一人じゃなんかあった時どうすんだよ。気にすんなって、仲間だろ?」
「俺はほんとに平気だから、」


私が必死になっていると、グラウンドの人混みの中心から基山がだるそうに体を引きずりながら出てきた。いつもより顔色が悪い。体調があんまりよくないのかな。だけどキャプテンが肩を貸そうとしても、大丈夫の一点張り。でも今の基山を見る限り、大丈夫そうには見えないんだけどな。何強がってんだろ。基山はそのまま自力で歩きだした、だけどしんどそうだ。なんであんなに頑固なんだろう。…あれ、大会近いんだっけ。みんなには練習しててほしいのかな。チームメイトじゃなかったら、大人しくつれてかれてくれる、とか?


「キャプテン!」


気づいた時には、グラウンドに出てた。うわあやっちゃったよ、ファンの子たちごめんなさい!革靴をならしてぱたぱたと駆け寄ると、基山は私を見てゆっくりと瞬きをし、小さな声を発した。「…名前ちゃん?」とりあえず基山への反応は後回し。あとが怖いけど。怖いけどそんなのに負けてられない。キャプテンに向き直り、一応確認。


「キャプテン、基山を保健室に連れていけばいいんだよね?」
「ああ、だけどヒロトが聞かなくて…」
「マネージャーの子たちは買い出しとか?」
「待って、俺なら一人で大丈夫だよ円堂くん」
「みんな買い出し行ってる。それがどうかしたのか?」
「選手の面倒を見るのはマネージャーの仕事だから。マネージャーっていうかお手伝いだけど、私がつれてくよ。だからみんなは練習してて!」


私がぱしんとキャプテンの背中を叩くと、呆気にとられたような顔をしたあとすぐに頷いて「任せた!」と笑ってくれた。私も頷いて、基山に肩を貸そうとする。と、基山はなんだか複雑そうに私を見ていた。う、わ。やっぱ嫌だったかなあ…。あとが怖い。まあ、とりあえず基山の体調優先だ。そのままゆっくり歩いてグラウンドの外に出て、保健室までのろのろ歩く。汗でペたりと張り付いた前髪の下、基山はやっぱりしんどそうに目を伏せている。なんか無理したのかな。昨日は私も手伝いに来てたのに、気づけなかった。…ごめん基山。基山の体は少し熱かった。保健室までの道は意外にも長かった、でもなんか申し訳なくて話し掛けられなくて。「…名前、ちゃん」少し掠れた声がした。


「あのさ、」
「なに?」
「自分が悪いとか、思ってる?」
「…まあ、ちょっとは」


基山は少し長めに息を吐いた。私はなんだか気まずくてそっぽを向き、基山の次の言葉を待つ。何言われるのかな。慰めて…は、絶対ない。基山だもん。からかわれるとか?でもそんな余裕ないだろうしなあ。なかなか基山は次の言葉を発しない。普段はぺらぺらいらないことまで喋るくせに。「あの、」先に痺れを切らしたのは私だった。なぜだか私もじんわり汗をかいていて、ぱたりと首筋を伝う。それと同時に、基山はようやく口を開いた。


「きみの、せいだよ」


鼓膜にじわりと音が響いた。





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