いいなあ、ヒロトは無条件でモテるよなあ、なんて緑川が隣でぼやく。確かにフィールドの外の女の子の何割かは俺の名前を呼んでいる。うぬぼれとかじゃなくて、事実だから仕方ない。だけど俺はよっぽど緑川の方が羨ましいと思う。
いや、羨ましいを通り越して、ずるい。もはやずるいと思ってしまう。


「緑川君、ドリンクどーぞ」
「あ、ありがとう名前」


ぱたぱた、と名前ちゃんが走ってきて緑川にドリンクを渡した。すっかり懐いてるらしい緑川はにこっと嬉しそうに笑って、つられて名前ちゃんも笑う。かわいいなあ。だけど、ずるい。
じいっと二人を見ていると、ふと彼女と目があった。俺もにこっと笑う。だけど名前ちゃんは呆れるみたいに溜息を一つついて、俺にドリンクをぐいと押し付けてきた。緑川に渡した時となんか違う。


「はいどーぞ」
「ありがとう」
「今日はちゃんと渡したからね」
「ご褒美でもほしいの?」
「んなわけあるか」


名前ちゃんは俺にそうして押し付けると、ぱたぱたと走って円堂くんたちにドリンクを配る木野さんのところに戻っていった。緑川はがんばれー、と笑顔でその後ろ姿に手を振っている。…やっぱりずるい。無邪気な緑川が、なんだかずるく思えて仕方ない。
ぴょこぴょこ揺れる緑色を捕まえて、軽く引っ張った。「わっ」緑川はびっくりしたのか、目をまんまるにしている。「…ヒロトがこんなことするなんて」「珍しい?」こくりと頷く緑川。なんか…うん、俺だって緑川はかわいい。実際かわいがってるし。緑川もよくじゃれてくるし。そう、弟分みたいなもの。だからこそ、緑川がとられてるみたいでおもしろくないし、それ以上に弟分に名前ちゃんをとられたみたいでおもしろくない。


「ヒロト」
「ん?」
「眉間しわ寄ってるよ」
「ん…そうかな」
「うん。よし、後半も練習がんばろ!」


緑川がぐっと伸びをすると、ポニーテールもぴょこんと揺れた。「何考えてるか知らないけど、」真っ黒のつり目が俺を映す。小さい頃から見慣れてる好奇心のかたまりみたいな目のはずなのに、今日はやけに大人に見えた。「ヒロトにしてはばかなことしてるね」緑川はにっと笑うと、ドリンクを俺に押し付けてフィールドに戻った。…これ、俺がかたづけろってこと?最近生意気になってきたなあ緑川も。
両手にドリンクを持ってベンチまで戻ると、木野さんが笑顔で受け取ってくれた。「あ」振り向くと名前ちゃんがいた。木野さんとは正反対、あからさまにしまったという顔をするから、ばかなんだなあとまた少しかわいく思ってしまう。かわいいと、ついついからかいたくなるのだ。


「名前ちゃん」


にこっと笑ってそう呼ぶと、彼女はとてもげんなりしたように見えた。ああ、確かにばかは俺の方かもしれない。彼女のそんな表情に、こうして胸が痛くなるのは否定できないし。なのに、俺は。
…緑川の言うとおりだなあ。





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