「名前ちゃんてさ、いろいろ足りてないよね」


さらりと基山は酷いことをいう。私はとりあえずスルーを決め込んで、タオルをせっせと畳んだ。何言われても無視。これが一番早い。「あれ、無反応?」そうです、だから早く練習に…ってまだ始まってないんだった。何故よりによって基山と私のクラスだけ終わるのが早かったんだろう。「無言は肯定と受け取るよ?」ついてないなあ、ていうかアップしてればいいんじゃね。これ風丸くんとかなら絶対今の時間でアップしてるよ。ストレッチとか超念入りにしてるよ。「ドジだしさ、頭はお世辞にもいいとは言い難いしさ、」あー、早く一年生来ないかなあ。かわいいよね、一年。和むよ。


「胸も色気もないよね」
「基山、夜道には気をつけなよ」
「あ、よかった。あんまり反応ないから死んでるのかと思った」


基山はにこりと笑った。…ほんとに何がしたいの。「ねえ、気にしてるの?」「はあ?」「胸と色気がないこと」私はほぼ反射的に手に持っていたタオルを基山の顔面にたたき付けた。ああ、これがドリンクだったらよかったのに。なんでふかふか仕様のタオルなんだろう。当たり前だが、基山は平然とタオルの下から顔をだした。私の顔をにこにこ眺めてくるから、目が合わないように体ごと基山から逸らした。「あ、」基山がぽつんと呟く。無視無視。もうほんと、構ってたら遊ばれるんだから。まともに基山の話きいたら負けなんだ。


「名前ちゃん」


背後で基山が動く気配がする。結構近い。首の、すぐ後ろらへんだ。離れろ、と無言で手をしっしっと動かそうとすると、手首をしっかりと掴まれる感覚。…きーやーまー。はあ、と振り向きもせずため息をついていると、基山が「ねえ」と声を出した。


「俺のこと嫌い?」
「さーあね」


ぱし、と手を払うと同時に部室の扉が開いた。風丸くんだ。「早いな」「へっへー、終礼が早かったの」「いいな、俺んとこの担任遅くて」風丸が少しふてくされた顔をするからおかしくて笑う。「俺、アップ行ってくるよ」「あ、うん」基山は、風丸の横をするりと猫のように抜けていった。「名前ちゃん、胸がぺったんこって一部のおじさんにウケがいいみたいだから気をつけて」「お願いだから早くアップいってください!!!」基山はほんとに何がしたいんだ。風丸はというと、ほんのり頬を染めつつも聞いてないフリをしてくれていた。…いいや、追求したら墓穴掘るよねこれ。私は基山の存在を頭から追い出し、風丸に向き直った。


「ほんと、八つ当たりはやめてほしいよ…」
「八つ当たり?」
「うん。なんか基山不機嫌だったよね」
「そうか?」


…勘違いかなあ。さすがに無視はやり過ぎたか。とりあえず、基山に投げつけたタオルが床に丸まって落ちていたので拾い上げた。その拍子に、いままで畳んでたタオルの山が崩れる。「あ」そう、悔しいけど確かに私は基山の言うとおりたまにドジをふむのだ。そんな私を意外にも助けてくれるのは、基山。あの口さえ動かなければ、素直に感謝するんだけど。はあ、今はまずタオル畳みなおさなきゃ。





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