テスト前、居残って勉強。
これは中一からずっと同じ。家帰るとやる気なくなるし、正直よくわかんないし。でも欠点、机は家のより小さいから、あれこれ乗せると定員オーバー。
がらがら、と言った側からペンケースが机から転がり落ちた。もちろん開けっ放しだから、ペンたちは床を奔放に転がっていく。


「…あーあ」


立ち上がって広いあげていると、がらりと教室の扉が開いた。無意識に見ると、真っ赤な髪。さっと視線を逸らしたけど遅くて、「あ、またドジしてる」とくすくす笑われた。すいませんね。みつあみにした髪が視界の端で揺れる。あ、なんかぼさぼさかも。
結局基山も拾うのを手伝ってくれて、私が席に座ると一つ前の席に座って頬杖をついた。週番、終わったなら帰ればいいのに。


「ここテスト範囲じゃないよ」
「え!?」
「嘘。ごめん」


けらけら笑う基山。むかつく。基山の顔を支える肘を手で思いっきり払うと、かくんとなってざまあみろと呟いた。
すると、基山が私のシャーペンを握る手を掴んで、ひょいと持ち上げた。「邪魔しない、」でという前にぺろりと唇をナメられる。は?掴まれた手ごとシャーペンを基山のもう片方の手にでも振り下ろそうとするけど、基山は普通に押さえてにこにこしていた。


「照れてる照れてる」
「さいっていほんと私死んだら基山のせいだ」
「キスで窒息死?」
「中学生でしょ!!!」
「そうだね。でもそれ以外なら不名誉きわまりないよ、なんで俺?」
「ファン」
「…知らない」
「それに基山だって私のせいにした」
「ん?事実だからね」


にこり、と笑う基山。…知らない。私のこと考えて寝不足だったなんて言われても、べつにきゅんとなんかしないし。むしろファンの子に聞かれてたらどうしようでぞくりだ。口を大袈裟にふいて、シャーペンを握り直す。


「…勇気出してキスしたのに」
「な、なめたじゃん」
「……さすがに普通にキス、は恥ずかしい、しね」
「…私からしたらなめるのも恥ずかしいと思う」
「そうかな?」
「……うん」


基山の頬はどことなく赤い。たぶん私はもっと赤い。かりかり、と無心で問題を写した。空気に耐えられなくて、わざと音をたてながら字を書く。すると動きが乱暴だったからか、またペンケースが落ちた。あ、と言うのと同時に基山がそれをキャッチした。


「セーフだ」
「…ありがと」
「名前ちゃん」
「ん?」
「……こちらこそ」
「…いえこちらこそ」


基山に告白されて三ヶ月。付き合い始めて、一ヶ月ちょっと。
結局私は基山にオーケーをした、わけだ。からかわれてばっかりで、遊ばれていると思っていたのに。基山が真面目に、私が好きだと言うから。でも、基山が無理にでも追いかけてこなかったら、掴まえなかったら、私は逃げつづけたと思う。
だって基山だ。好きになんかならないと思ったし、釣り合わないって。そんな風にいろいろ基山のことを考えてるうちに寝不足になった。ああ、結局似た者同士だなって思って、基山の笑った顔が恋しくなった。腹立つけど、見たかった。
たぶん、ちょっとだけ好きだったのに、私のせいだとか言われて意地を張ったんだ。からかわれてるとか言いながら、他の子とは違う態度に私のこと好きなのかなって少し思ってた。だから、余計意地張って。


「ね」
「何?」
「キスしたい」


シャーペンがぽとりとノートに落ちる。顔をあげると、基山がじっと私を見ていた。目が合って数秒、照れたように笑われる。か、と顔が赤くなったのがわかった。ついと視線を外す。やっぱりからかわれているんじゃないかと思うんだけど、あんな顔を見せられたら何も言えなくて。ばか。私のばか。


「…これ終わったらね」


わけのわからない言い訳一つ。基山はうれしそうに笑う。私の心臓はばかみたいにどきどきしているのに。ああでも、きっと基山もどきどきしてるんだろうなあ。そう思うと自然に笑えてくるから、不思議だ。





110409
end

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