タオルは洗ったから、あとドリンクのボトル洗わなくちゃ。運動部共用の洗濯機がまわっている間に部室に戻って、ベンチの上にずらりと並べられたボトルにちょっと苦笑した。
今みんなは試合後のミーティング中で、マネージャーじゃなくてただのお手伝いな私は片付けをしてるわけだ。先に帰るのもあれだし。だからと言って、なにもしないのは手持ち無沙汰になるし。できるだけたくさんのボトルを抱えて立ち上がると、そのうちの一個がぽとんと落ちて、ベンチの上の他のボトルに当たった。そうしたら今度はベンチの上のボトルが倒れて、まるいものの宿命といわんばかりにベンチから全部転がり落ちた。「わ、ちょ、」拾おうとしたらまた私の手からボトルがたくさん落ちて、床はボトルだらけになる。うわあ…


「…何やってるんだ?」
「っ風丸!?」


部室のドアを開けて、そこに立っているのは風丸だった。こんな失態を見られるのは恥ずかしくて、急いでドアの前までいくとボトルを隠すように立った。「ど、どうしたの?」「ああ、ミーティング終わったって言いにきたんだが…」風丸はやっぱり不思議そうで、中を覗き込もうとしてくる。いやいやちょっとまって…!私は完ぺきな女の子になるって決めたんだから、こんなところで失態をさらすわけには!
その時、突然風丸の目がちょっと白い手で塞がれた。ひょこ、とみえたのは赤色。助かったと思ったけど、もしかしてそうじゃなかったかもしれない。


「風丸君、嫌がってる女の子にそういうことしちゃだめだよ」
「ひ、ヒロト!そういう言い方やめろよ!」
「あはは。円堂くんが呼んでたよ」
「…わかった」


かぜまるー!というキャプテンの声が聞こえて、風丸は部室を出ていった。あっと思ったけど今ここから動いたら、中の惨状がよりによってこの基山に見られてしまう。結局なにもしようがなくて、基山のシューズの先をみた。視線を感じるけど、下を向いたまま動かないことにする。


「名前ちゃん」


先にしゃべったのは基山だった。思わず反応しそうになるのを深呼吸して堪えて、シューズの先だけをじっと見つめる。「ボトル、大変なことになってるね」基山の言葉にはっとする。しまった、下向いてたから中が見やすくなってたんだ…!あわててほぼ反射的に後ずさると、基山はぱしりと私の手首を掴んだ。


「…きやま」
「ドジだよね、名前ちゃん」
「っうるさ」
「お礼に手伝うよ」


え、私の口からぽとりと落ちたのはすごくまぬけな言葉だった。基山はあっさり私の手首を放して、部室内に散乱したボトルをこちらに背を向けて拾い始める。我に返った時には、半分以上がベンチの上にきちんと整列していて。「いいって私やるし!」基山の手なんか、借りなくてできるのに。かっと頭に血が上って基山の腕を思い切り引っ張ると、案外すぐに振り向いた。基山の目はやたら冷静で、反対に興奮している私を頭からつま先までみて、くすりと笑った。


「なに笑ってるの!」
「名前ちゃん」
「…なに」
「そうやって背伸びしないでいる方が、俺はいいと思う」


基山は前みたいに、真顔でそんなことを言った。つい何時間前の時と違って、いつも通りのからかい方。いつも通り?そんなにいうほど定着もしてなかったし、最近はいつも目も合わせてなかった。のに、いつも通りってどういうこと?
ぐるぐる頭の中をめぐる思考、そんな私を見兼ねたのか基山が手を伸ばした。その手は私がよける前に、私の後頭部の髪の毛に触れた。


「かわいい」
「な」
「もちろんおしゃれもいいけど、そんなことより一生懸命マネージャーのお手伝いしてる方が生き生きしてるよ。うん、」


かわいい。にこにこ笑ってそういう基山に、さっきとは違う意味でかっと血が上る。ほっぺが熱くなって、思わず押さえた。基山は笑うだけだ。からかわれて、る。でも今までとは違って、なぜか顔と、胸の奥が熱くなって。そんなの初めてで、よくわからない。どうしたらいいの。ねえ。だからいやなんだ、基山はいっつも余裕たっぷりなのに私ばっかり振り回されて。


「応援、ありがとう」


基山はへらりと笑った。かっこよかったよ、なんて冗談口から出てこなかった。





110309

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