試合は順調で、私たちのチームは2−0で勝っていた。前半が終了して、みんながベンチに帰ってくる。この時のマネージャーの仕事は、みんなにドリンクとタオルをわたすこと。疲れたみんなに、後半も気持ち良く頑張ってもらうために。「そっちお願いね」秋ちゃんからドリンクとタオルを受け取り、くるりと振り返る。よし、仕事仕事!
とりあえず間近にいた風丸に渡す。その時にさっきのプレーを褒めると、風丸は誇らしげに目を細めながら、うれしそうに笑った。「サンキュ」そういってもらえるだけで、がぜんやる気が出る。次に土方先輩。そのまま少し話していると、離れたところに基山が見えた。ベンチから少し離れたところに向かっている基山に、ほかのマネージャーたちは忙しいのか気づいてないみたいだ。いくら基山といえど奴は人間だし、普段の練習なら水分はかならず補給してる。あまり自らいくのはいやだけど、大事なチームメイトの為だ。基山は地面に座って柔軟を始めた。そういえば基山は、今日少し調子が悪そうだったような。


「基山」


呼ぶと、柔軟の手を止めて顔をあげる基山。今日二回目の驚いたような顔。「名前ちゃん」私から話しかけたはずなのに、なぜかまったく言葉が出てこなくてつまる。しゃべろ、フツウに言え。必死に念じて、からからになった口からようやく出たのは「ドリンクとタオル」という会話する気ほぼゼロといわんばかりに単語だけだった。
基山は瞬きを数回して、それから「ああ」と小さく呟いて手を伸ばしてくれた。そこにドリンクとタオルをのせる。基山はすぐにドリンクを飲んだ。やっぱ喉かわいてたんじゃん。取りにくればいいのに。前はくどいくらいだったくせに。


「…柔軟、手伝おうか?」
「………ああ、うん。頼むよ」


基山の背中を押すのは久しぶりだった。なんとなく前みたいな力で押すのははばかられて、ちょっと加減しつつ。基山に加減する必要なんてないと思うけど!それ以上の会話は特になく、ただ基山の背中を押し続ける。少し汗でしめった背中は、もしかして前押したときより少し広くなったかもしれないなあ、なんて思ってあわててそんな考えを追い払う。おいおい、それはないよ私。



後半も半分終わった。相変わらず基山はほとんどボールがとれてない。一点いれたけどいれかえされて、今は3−1だ。私のチームからのキックオフ。その時、なぜか吹雪君に変わって基山がキックオフになった。え。調子悪いんじゃ、失敗したらどうするの。基山が失敗したところなんか正直別にみたくない。そんなことを考えながら基山を見ていると、顔をあげた基山と思い切り目があった。基山は私を見て、またびっくりしたような顔をした。その時鳴り響くホイッスル。豪炎寺君がちょんと蹴ったボールに、基山が飛び出す。早くて、足にすいつくみたいにボールが動く。
いつもより調子が悪いのは本当みたいで、ちょっとしたブロックを避けるのにもタイミングをはかれてない。豪炎寺君や鬼道君にパスをまわしながらゴール前に上がる基山。マネージャーのみんなが声を張り上げて応援する。基山は赤い髪をなびかせながら走っていた。


「基山がんばれ!」


私も初めて、基山を応援した。試合終了後にもしなんか言われたって交わしてやる。にこにこ笑って、かっこよかったよくらい言ってやる余裕はあるはずだ。基山はぐんぐん上がってく。周りの声援とかが遠くなって、かわりにどくどくと心臓の音がした。目まぐるしく動くフィールドの中を、じっと瞬きも惜しんで見つめる。
その時、基山がボールをとられた。「きやま」私の喉から出たのは案外小さな声だった。それとほぼ同時に、鬼道君が「基山!」と叫んだ。鬼道君がもうボールをカットしていた。そしてそのボールが、基山に向かって飛んでいく。きれいに基山の元に戻っていったボールは、振り上げられた奴の足によってゴールネットに勢いよくつきささった。





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