ドリンクとタオル、それから冷却スプレーにテープにその他もろもろ。マネージャーはそういったものを選手のみんなが来る前に準備する。もちろんお手伝いの私もだ。チームのみんなの役に立ちたいから、ドジを踏まないよう一生懸命とりくむ。さすがに何回もやってるからこのくらいできるし!それでも秋に比べたらまだまだで、ちょっとあれだけどできるだけ足を引っ張らないようにするのが私のベストだった。けど、秋はなぜかうれしそうで。
そんな作業中、視界のはしでふわふわしたものがちらついた。私の髪。耳にかけても、すぐにまたふわふわふわふわ。あれおかしい、前はこんなじゃ…。あ。そうだ、髪まとめてないじゃん。邪魔になるよね。手早くまとめて結ぶと、随分首まわりがすっきりした。うん、だいぶ切ってから時間たって伸びてたし。


「あっ」


耳に飛び込んできたのはかわいい後輩の声。振り返るよりも早く、背中に衝撃がきた。「名前!」「緑川君おはよ」ぎゅうぎゅう抱きついてきながら、きてくれたんだ!とうれしそうな笑顔を向けられた。これだけよろこんでもらえると、来たかいあるなあと思う。


「かわいい!」
「え」
「髪結んでるとこ久々にみたよ!」


にこにこ、と笑う緑川君にちょっと恥ずかしくなって結んだゴムに手をかける。いやだってそうだ、最近結んでなかったし、改めて言われると恥ずかしい…よね。「あっだめだめ!」すぐに緑川君が手を伸ばしてきたから、失敗に終わったけど。黒い大きな目がきらきらしてうれしそうに私をみるから、それ以上の行動も起こせず。
私が諦めたからか、緑川君は手を離して少し下がってまたこちらをみた。やっぱりうれしそうだ。「うん、かわいい」そう言って緑川君は、うしろを振り返った。私もそっちをみて、固まる。

ねえヒロト!

向こうから歩いてくるのは基山だった。たぶん一緒にきて、緑川君が走ってきたんだろう。頭のなかはそんなことでぐるぐる動いてるくせに、肝心な会話とか、そういうのがまるで出てこない。基山は私を見ていた。私も基山を見ていた。久しぶりだった。深緑みたいな不思議な色にちょっとなつかしいなと思う。って、そんなこと考えてる場合じゃなくって。


「きや、ま」


先に耐え切れなくなったのは情けないことに私だった。いっつもそうだ。だからからかわれるんだということに気づいても、まだ。基山の私をみる目は驚いたと言わんばかりで、でも私より随分落ち着いてるらしい基山はゆっくり口を開いた。


「びっくりしたよ」
「わ、私がきてること?」
「それもあるけど、」
「別に、電話かかってくる前からもともと来るつもりだったよ。普段から手伝ってるし、びっくりするようなことじゃないじゃん」


それもだけど、と基山の口がまた動くのをみて、私は無意識に一歩後ろにさがった。思わず身構えていた。何をいわれても絶対動揺しないんだから。内心気合いを入れ直していたけど、基山は口を開いただけでなにも言わなかった。「…いこう緑川、仕事の邪魔になる」かわりに奴の口から出たのは、拍子抜けするくらいまともなものだった。私はまたかたまる。基山はふい、と横を向いてキャプテンの方に歩いていった。まるでなにもなかったみたいに。緑川君もあわてたように後についていく。こっちを振り返るから、私は笑顔で手を振った。
たぶんこれが正解だ。私が欲しかった、基山と関わらない生活って。





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