ずるずるずる。
前を行く女の歩き方を表すのには、まさしくそれがぴったりだった。
苛つく、なんだ、なんなんだよ。
蹴っ飛ばしてやりたかった。殴って、踏み付けて、弱っちくひいひい泣き叫ぶ様が見たかった。こんな風に情けなく生きている奴には、そのくらいがお似合いだ。

妙な恰好をした女は、やっぱりずるずると歩いていく。俺は久々に家に帰ろうと思っていたが、やめた。どうせ家にゃ誰もいねえ。そのまま女の後をついていく。
しばらく歩いて、俺はあることに気づいた。女はずっと下を向いて歩いている。一度も顔をあげちゃいねえ。既に住宅街に差し掛かっている、こんなごみごみした暗い中を道路一点だけ見て目的地に辿り着けるのか。ずるずるずる、やはり女は歩き続けている。なんだか急にその背中がカナシソウに見えた。馬鹿じゃねえの。


「おい」
「…な、んですか」


女はひどくゆっくりと言葉を発した、何日も喋ってなかったんじゃねえかってくらい掠れた声で。やつれた顔をしていた。それと同時に、カナシソウな顔をしていた。カナシソウな目が俺を見つめる。じっと、ゆっくりと。
そんな女を見て、俺は不機嫌になった。苛々する。腹が立つ。最下層の人間を見たからに違いない。こいつは、弱い奴だ。


「俺ん家、来い」


喉からこぼれ落ちたのは冷淡な声だった。
女はその目を見開いて動きを止めた。俺は踵を返して歩き出す。予定変更、家に帰ることになりそうだ。女は絶対についてきているだろう。ずるずるずる、あの歩き方が脳裏に焼き付いている。





100809


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