「ふざけてんのか」


ばきい、といっそ心地好いくらいの勢いで殴りつけた。吹っ飛ぶ女。ごろごろと無様にフィールドを転がるのを、チームメイトは冷めた目で見ている。女は俯いたまま、その視線から身を守るかのように小さく震える。カワイソウ?へーそうなんですか。苛々苛々。ああ畜生、俺だって傍観者になりてえわ。
とりあえずボールを拾い上げて佐久間に放る。スカウトしてきた、それも、帝国から。奴は何より弱者を嫌う。だから、女を心底憎んでいた。だがそれが自分と重なるから、とは何時になったら気付くのか。佐久間はぎりと聞こえる程に奥歯を噛み締めて、低い声でおい、と言った。女はびくりと肩を震わせる。だが、ゆっくり顔を上げるとじっと俺だけを、俺だけしか見えていないかのように俺を見据える。


「不動、さん」


佐久間が隣で、ぶち切れたのがわかった。佐久間の足が振り上がる、女が小さく息を飲んで頭を抱えた。それと同時に、叩き付けられる皇帝ペンギン一号。
女は吹き飛んでから、動かなくなった。ちらと見れば、佐久間は痛みと憎しみで酷い顔のまま、がたがたと震えていた。…くだらねえ。鬱陶しい奴。早々に観察にも飽きて、無様に転げてるそれに近づく。聞こえる微かな嗚咽。ざわり、と背中を駆け抜ける嫌悪。爪先でひっくり返すと、すぐに腕が顔を覆う。必死に噛み殺そうとしているらしいが、震える呼吸は耳障りに鼓膜を揺さぶる。


「おい」
「………は、い」
「もういいや、お前」


手首を持って思い切り引っ張ると、体が痛むのがひっと息を吸う音。その瞬間は腕が外れて、涙を堪える顔が少しだけ見えた。立たせた体は随分軽く、骨張っている。違う。ぞわりと乱れる心臓。思わず視線が合って、しかし女は涙に揺れる目をすぐに逸らした。微かな呼吸が掴んだ手から伝わってきて、胃から何かが込み上げそうだった。気持ち悪い。


「…ふどう、さん?」
「……雑用やれよ」


手を離して、背中をぐっと押す。よろけた女はそのまま再びフィールドに倒れた。邪魔だ。腹の中をぐちゃぐちゃに乱す感情と苛つきを察したのか、源田が女を担いでフィールドから出した。ようやく視界から消えた存在。冷静じゃない自分にさらに苛立つ。


「役立たず」


誰かが女をそう呼んだ。別にいい。仕方ない。名前の無い奴が悪い。





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