スカウトして集めた十人は、別に飛び抜けて上手いわけじゃなかった。多少はフォローできる、メンバー集めはお前に任せる。そう言った総督の言葉に嘘はないだろう。だから俺は、強さに貪欲で絶対的な崇拝をしている奴らを選んだ。強くなりたい。強さこそ全て。強者に弱者を喰らう資格はあれど、その逆は無い。許されることも、奇跡が起きたとしてもそれは起こり得ない。それを理解している者だけに、真帝国の名を冠する資格が与えられる。


「…不動さん」


あちこちを回り、スカウトをして疲れた体をソファに横たえる。今日、ようやく十一人揃った。俯せになると、総督に渡されたペンダントがぐりと胸元を圧迫した。「不動さん」小さな雑音が聞こえる。五月蝿い。近くにあった雑誌を投げつけると、息を飲む音がした。…うぜえ。
何を言われるかは知っていたから、言われる前に立ち上がってテーブルを見た。ラップのかかった皿。側にあったスプーンも掴んで、台所に向かう。


「あの、私、あたためますから…、」


ラップを剥いで、ごみ箱へ。その上に、べちゃべちゃと白い半液体半固形の物体が落ちた。赤いのと緑のは野菜だろう。だがとても食べ物には見えない、酷い有様だった。ぼたぼたと落ちるシチューを冷めた目で見つめる。汚い。それから、スプーンと一緒に流しに放り込んだ。がちゃん、と耳障りな音がした。
置きっぱなしだったスーパーの袋からカップ麺を出す。ポットからお湯を線までいれて箸を持ちリビングに戻れば、女は俯いたまま唇を噛み締めていた。何かを堪えるような顔。カナシソウな顔。うぜえ。消えてくれ。


「文句あんのか」
「……ないで、す」


そう言った声は震えていて、思わずカップ麺の中身をぶちまけたくなった。だがこいつにぶちまけたところで何になる、とぎりと手に力をいれて堪えた。後が面倒臭くなるだけだ。出来上がるのを待つ間に、その辺に転がっていたエナメルのバックを足元に投げ捨てる。女は、視界の端でそれをおそるおそる拾った。


「必要な物詰めとけ。行くぞ」


お前は、俺の所有物。こんなモラルも糞も無い俺だって、どこぞの馬鹿共とそのペットの様にこいつは捨てていいもんだとは思ってない。拾ったからにはある程度の責任は果たす。それにこの女は強い。連れていけば何かと役には立つだろう。頭も悪くない。受け入れるつもりはないが、現状誰よりも俺という人間を理解し、そして他者から見たらいっそカワイソウなくらい俺に尽くそうとしている。弱者を踏みにじり脅し君臨し、俺が悪の様に見えるだろう。だが違う。


「…はい、不動さん」


俯いているせいで見えないが、きっとあの酷く白くて何かが欠落したような顔には悦びが浮かんでいるに違いない。何故ならこの女は、俺に惚れている。そのくらいわかる。わかりたくもないが。まあ見ているだけで殴りたくなるようなこいつを側に置いてやっているんだから、感謝して欲しいくらいだ。
ソファに腰掛けてまだ少し固いカップ麺を食う。視界の端で、女が何とも言えない表情で細く息を吐いたのが見えた。なんだ、その顔。





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