勝てるサッカーがしたかった。
それには俺のチームはあまりにも弱すぎた。勝たれた相手に手を出そうとするし、負けた相手には言わずもがな傍若無人に振る舞い。別にスポーツマンシップ云々なんていうつもりはねえし反吐が出るが、サッカーでの勝敗なんざ関係ないように行動する奴らが目障りになってきたのは事実だ。俺が動かしてやらなきゃ、ろくにプレイできねえくせに。奴らの中で、俺のこの進化が止まらなければいけないのならそれこそ俺は奴らを潰す。糧にする。存外にうまい女とのサッカーは、俺に向上心というにはあまりに醜いものを芽生えさせている。
そのむしゃくしゃに耐え切れなくなって俺は、とうとうチームの奴らを喰らった。殴りも蹴りもしたし、サッカーボールを蹴りつけたりもした。喧嘩もサッカーも俺には勝らないそいつらは、もう二度と俺の前には現れなくなった。そして俺は、サッカーができなくなった。


「っら!」


一番避けづらいとされる太股の辺りを狙うと、面白いくらいに命中して女はうずくまった。ひっと息を吸う音が暗い公園に響く。誰も助けない。なぜなら俺が助けないから。この二人だけの空間で俺に見放された女は、神に見放されたと同じ虫けらみたいなもんだ。女にぶつかったサッカーボールは、ごろごろと無様に外灯のわずかな光すら届かない辺りまで転がっていった。女を見る。まだ動く気配がない。あーあ。舌打ちを一つして、ボールを取りに行こうとした時だった。


「力が欲しい」


女の声ではない、低めな声がした。二人しかいないはずのこの場所でした声を無視をする気は起きず、迷いなく振り向く。外灯の光から外れた、おぼろげな月の明かりの中に大人の影が一つ。


「勝ちたい」
「……かげやま、れいじ」
「勝つ為の力が欲しい。…違うか?」


いつかのニュースで見た、テイコクガクエンの総督とやらだった。俺と女だけしかいない公園にゆっくり入ってきたそいつは、俺をじっと見てにやりと笑った。「勝ちたいんだろう、不動明王」そう言って笑う男は、どこか頭がいかれているに違いない。だから俺は鼻で笑って女の方に向き直った。いや、向き直ろうとした。だけど不意に視界の端でちらついた紫の鈍いような光に、一瞬にして意識を奪われた。忌ま忌ましい色。毒々しく鼓動するかのように光るそれに、俺の中の何かが強く惹かれた。あの光が欲しいと思った。


「ふどう、さん」


ボールとって来ます、と女が立ち上がるのが見えた。情けない足取りで歩く女に、何故か激しく苛立った。弱者だ。弱い存在。そうだ、俺の周りは何時だって弱い奴ばかりだ。強い奴を蹴落としてこそ、より強くなれる。弱者の中で仲良しこよしで球遊びなんて、そんな事になんの意味がある。強くなりたいのなら、絶対的な力を持たなくては。あの歪んだ光は、力だろう。それを得て、そのさらなる上を目指せ。なんだっていい、一度強くなれば、この俺の身体ならそれを記憶する。そうすれば俺は、不動明王はプレーヤーとして進化できる。


「おっさん、カゲヤマレイジだろう」
「そうだ」
「犯罪者が何の用?」
「用があるのは貴様の方だろう」


所詮は犯罪者だ、こいつは少しも俺の為に動きはしない。利用しようとしてくる。ならば俺もまた、こいつを利用すればいい。搾り取れるだけ搾り取って、捨てればいい。こいつにはそれをされるだけの理由を作ってやればいい。俺にはそれができる。ころり、足元にボールが転がってきた。女が、何か言いたげな目で俺を見る。だからまた、太股の辺りを狙って蹴りこんだ。蹲る女、またどこかに行くボール。意味など皆無。目の前の男は厭な笑みを浮かべている。





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