女が家に来てから、結構に経つ。
相変わらず俺は家に帰ったり帰らなかったりをしているが、女の方は貸してやった和室に常にいるみたいだ。服は適当に古いのをやった。俺にとっては小さくなったそれも、女にとってはぴったりらしい。下着類も知り合いから適当に譲ってもらったものをやって、それなりに不自由無くは暮らせているはずだ。
二日ぶりの帰宅は深夜を選んだ。俺は未だあの女と顔を合わせる気がしない。苛立つ、むかつく、あの女のカワイソウな部分が大嫌いだからだ。じゃあ何故居候させてるかというと、たぶんほんの気紛れ。

踵を踏み潰した靴を脱ぐ。足音を殺すつもりなんかはないが、ゆっくりとリビングに向かった。女は最低限の家事は出来るらしく、洗濯して畳んである服の山から適当に二、三枚引っこ抜くとショルダーバッグに突っ込んだ。スポーツタオルも同じようにして、汚れ物は洗面所の床に投げた。それからシャワーだけ浴びて、ソファに突っ伏す。だけどここで寝たら、明日女の顔を見なくちゃいけなくなる。しばらく携帯を弄ってから、のろのろと立ち自室に向かおうとした。
その時、携帯が高らかに鳴った。流行りの曲をがんがんと流す携帯。昼間絡まれた女子生徒を思い出した。うぜえうるせえ失せろ、確かそう言った気がする。そんなことを考えながら携帯を手に取り電源を落とした時には、和室の襖が開かれていた。…ったく、ついてねえの。


「不動、さん」
「…なんか用かよ」


女は、あの妙な服と化粧、髪型をやめたせいで一般人の様になっていた。相変わらず肌だけは変に白いが、これだけ閉じこもってたら当たり前だろう。
俺が突き放すように答えたせいか、女は口を噤んだ。視線を床に落とし、またあのカワイソウな奴になっていた。腹が経つ。「用、ないのかよ」もう一度そういうと、女は小さくなった。苛々苛々苛々。持っていたサッカーボールを蹴りつけた。女に向かって飛んでいくそれ、一瞬怯えた顔をした女は、だけどそれをしっかりと抱き留めた。


「あ…これ…」
「あ?」
「私、知ってます、この…これを」
「…サッカーをか?」


こくりと頷く女。記憶、ないんじゃねーのかよ。名前よりサッカーが記憶に焼き付いてるなんて、んな人間いるのかよ。いろいろ言おうとして、やめた。女はじっとサッカーボールを見つめている。


「明日」
「っ、はい?」
「朝になったら、それやってやるよ」


なんとなく、気紛れでそう言った。





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