俺はテレビを見ていた。
別に女と無理に口をきこうとは思わないし、使っていなかった和室を使うように言ったら、そこに入ったっきりまだ出てきていない。時刻は、もう結構に遅いだろう。作るのもたるいし、今日もカップ麺にしようと思った。…ああ、しまった。あれは押し入れの中だった。


「おい」


テレビを見たまま、声だけ出した。返事はない。仕方ないから、和室の襖を自分で開けた。驚いたような目で俺を見る女、汚れた服を脱ごうとしてるとこだったらしい。舌打ち。ったく、タイミングが悪いにもほどがある。
俺は当初の目的である押し入れから、ダンボールを引きずり出した。そのままリビングの端まで持っていく。「あっち」俺は廊下の方を指差した。「洗面所の横。もう使えるぞ」女は戸惑ったように廊下に視線を走らせた。記憶がないってのは、まさか一般常識含めとかじゃねえよなあ?


「お風呂、ですか?」


わかってんじゃねえか。頷くと、女は視線をさまよわせる。言いたいことがあるなら言えよ。無意識のうちに目を細めて、女を睨みつけていた。女は小さくなりながら呟いた。


「き、着替え…貸していただけないでしょうか…っごめんなさい、あの、」
「………先入れ、適当に出す」


女の方は見なかったが、その怯えた雰囲気が和らいだのはわかった。ああ、なんだこれ。苛つく。女はぺこりと頭を下げると風呂場の方に消えた。油の塊みたいなカップ麺を食べる気なんか失せ、ダンボールを部屋の隅に向かって蹴飛ばした。むかつく。適当に冷凍庫を漁ると、焼きおにぎりが一つだけ入っていた。舌打ち。前食べた時、二個あったはずだ。どうやら母親が帰ってきていたらしい。愛人のとこに入り浸ってるくせに、時々帰ってきて息子の食料食いつぶしてんじゃねえよ。苛々しながらもそれを和室に放り投げ、それから洗濯物の山から着なくなった古い服を取り出した。バスタオルの代わりにスポーツタオルを出し、服と共に洗面所に放り込む。
とりあえず食料も服も寝床もある、死にはしないだろう。踵を踏み潰した靴を履き、携帯片手に外に出た。明日の朝までに帰ればいい。アドレス帳の中から顔すら思い出せないオトモダチを一人選び、コールをした。





100819


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