「おかえり、」
「おー、ただい」
「なんて言わないから」
そう言うと、条介はぱちくりとまばたきをした。
でも知らない。わたしは悪くなんかない。悪いとすれば、なにも言わず、身ひとつで飛び出して、何週間もしてから帰ってきた条介だ。
「ちょっ、ちょっと待てって!」
踵を返して歩きはじめると、やはりというか追いかけてくる条介。これで来なかったら、ほんとうに、誰が許すものか!なあんて考えながらすたすた歩く。
「いや待てって!」
「わたしただの幼なじみだもんね、言わなくたってよかったよねーそれにちゃあんと条介ママが教えてくれたから無駄に心配しなくてすんだし?」
「悪かった!おれが悪かったから!」
がっしりと、条介の手がわたしの腕を掴む。重そうなボストンバッグを抱えたままわたしを見る条介は、眉をさげてごめんなって笑った。
「お前が寂しがるから、言わないでいこうって思ったんだ」
「…でも」
「おう、言わない方が寂しかったんだろ?」
条介は、おれのこと大好きだもんなって笑いながらわたしの頭をなでた。久しぶりだ。うれしい。
きゅんって鳴ってしまった胸はどうしようもなくて、でもまだただの幼なじみでしかないわたしは、そんな条介に笑顔でおかえりって言うしかない。それがまた少し寂しくて、もうちょっとだけあなたの特別になりたいって思った。だってわたし、寂しがりだから。