(すいません原作です)


交番って箱の中に閉じ込められる業務とやつは退屈な代わりに案外穏やかで、ずっとこのままでも悪くはないなと考え出した自分にぎょっとする。枯れてる!
ドアのすぐ外は燦々と太陽輝くアスファルトと、たまに行き交う曇った色の車二・三台(洗えよ!)、それから思いがけず矍鑠とした老人が買い物袋を下げてのんびり現れる程度だ。もう少し日が傾けば、黄色い帽子を被った賑やかな小学生が大量に過ぎ去るんだろうが。
たまに現れる道案内希望の奴さえ今日はまだいない。昼下がりの気温は昼飯の結果しっかり刺激された副交感神経との相乗効果で俺を睡眠状態に放り込む気満々らしい。勘弁して。
「………」
ふと視線を感じて頭を上げた。中途半端にぼやけた頭が認識したのは、見慣れない長身の男が路上からこちらを見ている様子だ。目が合うと、どこか気まずそうな顔をしながらもこちらに向かってくる。
「お尋ねしたいんですが」
「はい、何でしょうか」
おや、と思う。この男、見慣れないくせに何となく記憶に引っ掛かる。身近な所ではなく、テレビや新聞なんかでこの顔を見た気がするが、芸能人という風情でもない(確かに男にしては綺麗な顔立ちではあったが)。
「ここら辺で、号泣しながらうろうろ徘徊してる女子大生とか見ませんでしたか」
それは女子大生というより妖怪の風情がある。
「さあ……」
「多分ここの交番に度々律儀に拾った100円を届けてる馬鹿正直な子なんですけど」
「ああ、あの子!」
同僚の間でも有名な女の子だ。今時あんな子がいるなんてねぇと年配の先輩達が年相応にしみじみ呟くのに、俺まで年甲斐もなくしみじみ連鎖してしまった。確か神崎直とか言ったか、小柄な可愛らしい子で、その子が100円握って現れる度に俺はひっそり頬を緩ませてたっけ。そういえばここ最近は彼女の姿を見ていない。何か忙しいのだろうか。
今日は見掛けていないとの旨を伝えると、男は何となく落ち着かない様子ながらも静かに礼を告げて出ていった。また辺りは遠いエンジン音だけを残して静かになる。あれはあの子の彼氏かな、とぼんやり思う。どうにも警察嫌いらしかったな。
さて、突然あの男が現れたお陰で少しばかり目が覚めた。伸びをする。あと少し気合いを入れねばと気分を切り替えた時、
「……ぅえっ……あき……秋山さぁぁん……」
妖怪がいた。と思ったら噂の彼女であった。年齢に似合わず子どもみたいに泣きながら体を引き摺るように路上を歩いている。
完全にすれ違っている、あの二人。どうしてこう僅差で上手いこと会わないんだ。とりあえずここはお巡りさんたる俺が迷子的彼女を保護、それからあの男をどうにかして呼ぶか、そう思い声をかけようとした時、彼女がふと顔を上げる。
「あ」
目線を辿ると、さっきの男が息を切らして走ってくる。何かを抱えているように見えるがまあさておき。彼女も瞼を拭って男の元に駆け寄った。感動の再会。めでたし。俺は目を細める。
「ごめんなさい!」
「俺が悪かった!」
……なんか違わないか。何故出会い頭に二人同時に謝罪する。
「あ、あの、また私我が儘言って捨て猫拾おうとしちゃって」
「俺も君がそこまで動物好きとか知らなくてあんな怒鳴って、こいつの貰い手は探してやるから泣きやめ」
「飛び出していっちゃってごめんなさい、秋山さんが怒るのも無理ないです」
「いやもう良いから!俺も大人気なかったから、とりあえず帰ってこいつ洗ってやろう」
男が抱えたみかん箱から、ぴょこんと黒い小さな猫が頭を出した。あら可愛い。………。
男はごしごし彼女の目元を擦ってやりながら彼女の手を引いた。素直についていく彼女は箱の中の子猫にへらりと緩んだ笑顔を向ける。猫は鳴く。俺は椅子に沈んでその背中を眺めている。
「………」
思わず息を吐いた。そろそろ黄色い帽子軍団が帰ってくる。交通安全でも呼び掛けてやろうか。







「この子飼ってくれる人、いるでしょうか」
「目星はついてる」
「!どなたですか?」
「ヨコヤに押し付けてやる」
「……ヨコヤさんのお家、ネズミいますよ」
「だからやるんじゃないか」
「!」








ひつじさんからリクエストいただきました、「第三者目線から見た秋直」でした
すみません、勝手に原作にしてしまいました。これでひつじさんがドラマ派だったらどうしようか……その際は最後の会話文をスッパリと忘れてくださいね!←
何だか妙な話になりましたごめんなさい。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ!リクエストありがとうございました。
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