どこもかしこも皹割れたような褪せた色しかしていないからね。見たくもないよ。吐き捨ててから後悔する。傷付けた。しかし本当だった。
「世の中全てが君みたいな馬鹿正直じゃないってことだ」
いつまでもいつまでもそうだ。何も知らない気楽な学生時代には夢にも思わなかったが、この歳、ましてや前科なんて背負う身としては今更な話だ。文集に青臭く描いた夢を守れるほど純真でもない。
「失望してんだよ悪いけど。君みたいに天真爛漫に世の中何でもかんでも愛してられないんだよ、誰もが君みたいに生きられるなんて幻想なんだ」
いっそ幻滅して置いていってくれ。汚いものを沢山沢山見たんだ。こんな見方しか出来ない俺の傍にいたら君まで汚れる気がするんだ。君の存在で手に入れたほんの少しの希望まで俺の手で潰させないでくれ。
「なあもう見たくないっていうのは罪か?どうしようもないんだよ」
腹の底で何を考えているか分からないものを探るのは疲れるんだ。もう楽にさせてくれないか。自分のせいで母親死なせて何百人もの人間不幸にして君を汚して苦しんで、もう十分なんだよ。何でこれ以上見せつけるんだ?
分かってるよ一番薄汚い褪めた色してるのは他でもない俺だよ、償うなら命でいいよだってもう俺には、
「浸らないでくださいよ」
震える声。強く俺の手を握って、君は俺の目の前にいる。
「目を曇らせちゃ駄目ですよ」
「どういう意味」
「秋山さんが教えてくれたことです」
「覚えてないな」
「分かってる筈です。そんなのは秋山さんじゃないんでしょう」
小さな掌が俺の瞼を塞いだ。払いのける気はしなかった。真っ暗な中に柔らかい彼女の感触、何かが揺れる。静かに額を繋げられた。君の体温が混ざる。
「私は知ってますよ」
「何を」
「秋山さんが優しい素敵な人だってこと」
「騙されてんだよ、お前」
「秋山さんは騙すのが上手ですからね。自分だって騙せるんです」
「お前に何が分かるんだよ」
「一つだけ。後悔してくれたでしょう」
「………」
「さっき私にひどいこと言ってしまったって、今でも気になって仕方ないんでしょう。それだけは分かってます」
「……何で」
「秋山さんが優しいからですよ。無理しなくていいんです」
ほら。手が、離れた。
見つめ返す。艶やかな黒い瞳があった。柔らかな白の肌に良く似合うパステルカラーの服、背景になった窓の外には青く水を含んだ葉が芽吹いている。その向こうの空は澄んでいた。
「……おかしいな」
気づけば俺の声も震えている。
「いきなり綺麗になりやがって」










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