理由など尋ねるだけ野暮だとは思わないか。あの天使のような少女をどうして愛でず守らずにいられようか!嗚呼しかし悲しいことに彼女は世の中の悪意を一身に受けるかのように薄幸な境遇である。こちらが胸を痛める程に愛され慣れていない。現に今傍らに積み上げられた色とりどりの贈り物の山に目を白黒させている。その様さえ愛らしい。いっそのこと連れて帰りたい。
ただ唯一気に食わぬことがある。この彼女への愛の山、一つではないのだ。
「ヨコヤさんと入れ違いに福永さんが来てくださってたんです。お引き留めしようとしたんですけど、秋山さんが戻る前に退散するって言って」
「……それはそれは」
賢明な判断である。あの鋭い目の無愛想な男が帰ってこずとも、この私が存分に料理したものを。というよりあの黒髪の詐欺師も消えてほしいというのが目下の願望だが、こればかりはどうにも叶えがたい。何故なら、彼女が悲しむ。
さりげなく足でかのキノコ男が残していった化粧品だの洋服だのの箱を退けて、持参した菓子と紅茶の山を彼女の正面にやった。いつも好んで口にしている銘柄の茶葉からいつか彼女が食べたいと呟いていた有名店のケーキまで抜かりはない。
「そんなことよりも、受け取っていただけますか。他でもない貴女のための品々ですから」
「そんな!こんなに沢山、」
「何を仰るのです。だって今日は」
「神崎さん?」
突如背後のドアが開いた。最早顔馴染みとなった、かの詐欺師の元同級生という人形のような容姿の女が顔を出し、こちらに向かって驚愕と憤怒の形相を見せていた。恐らく私も同じ顔をしていることだろう。
「葛城さん!」
「……こんにちは神崎さん。知らない男を易々と部屋に上げてはいけませんよ」
「生憎、私と神崎さんは貴女如きよりもずっと長い付き合いでしてね。知らない人間なら貴女の方でしょう」
見事に私の発言を無視した葛城は、ドアの外から次々と飴色の革のトランクを部屋の中に持ち込んでくる。
「お誕生日、おめでとうございます。これ、読みたいと仰ってらした本です」
「あ、ありがとうございます!でもこんなにいただくなんて」
「何の本ですか」
「心理学です」
勝ち誇った葛城を今度はこちらが無視する。それしきの書物程度の知識、この私が手取り足取り教えたものを!
「さて神崎さん、お茶をいれますね」
「あらそこの白髪が給仕をしてくれるようですね、私達はこれでも読みながら待ちましょうか」
「貴女はそこの本でも召し上がってればいいでしょう。まずはやはりショートケーキでしょうか、神崎さん?」
「右手方向に見える白い生き物は無視して構いませんよ、さあこちらは初心者にも分かりやすい入門書ですが、折角なので私が解説しますね」
「あ、あの、二人とも!」
「喧しい」
再びドアが唐突に開く。彼女に近づく上で最も邪魔と言っても過言ではない例の詐欺師が、血でも吹き出そうな鋭さでこちらを睨み付ける。と、思いきやすぐに視線を外し、彼女に対して実に穏やかな眼差しを向けた。セクハラで彼女から訴えられてほしい。
「行くぞ」
何でもないことのように彼女へ歩みより、その手をそっと取って立たせ、そのまま手を引き部屋を出ていく。戸口に置いてあった大きな荷物二つをもう片方の腕で器用に抱えてドアを開けた。
「あ、秋山さん?どこに行くんですか」
「どこって、」
唐突すぎる展開に反応がついていかない彼女のやっとの問いに足を止めた彼は、何故かこちらにその目線を向ける。口許が片方吊り上がった。
「誕生日祝いに、一週間旅行」
バタンと開いた時と同じくらいの唐突さで閉じたドア。部屋には私と葛城のみが残された。一瞬の後、葛城が口を開く。
「通報してください」





(可愛いあのこが拐われました!)







「え?知ってたに決まってんじゃん。だから大人しくプレゼントだけ置いてきたんだろ」
「聞いてないですよ」
「特にヨコヤと葛城には絶対に知らせるなよ知らせたら一生クリームソーダ飲めない体にしてやるって言われちゃったしー。まあそれなりの口止め料も貰ったけどね。それより良いの?」
「何がですか」
「泊まりだよ。一週間だよ。あのサディスティック確信犯がその間直ちゃんに手ぇ出さないでいられるかねぇ」
「110番してください」














ねこまるさんのリクエスト「皆からでれでれに愛される直ちゃん」でした。
すごく……いつも通りです
こんな私に「好きにやっていい」とGOサインを出してくださるねこまるさんは大物だなと改めて思いました。今後悔していらっしゃったらごめんなさい
皆というより基本的に食えない三人衆のターンでしたね。
リクエストありがとうございました!
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