びゅうとまた強く風が吹いた。目を開けていられず俯くと足元の影がくるりと回っていた。等間隔に立てられた街灯の、地面に落ちた丸い光のせいで伸びたり縮んだりを繰り返す。追いかけるように歩を速めた。ぱたんぱたんぱたん、と軽い音がひたすら頭の中に刻まれていく。空っぽになれる。ただただ前に。
金箔を貼ったような月のせいで星が曇った。身震いする。忘れるように更に足を速めた。ぱたぱたぱた。ぱたぱたぱた。
「速い」
冷たい掌が手首を包んだ。足が止まる。振り返った。呆れた顔の彼は少しだけ息を切らしていた。隠す間もなくぼろりと目から水が落ちた。
「……どうした」
「何でもないです」
「ない訳あるか。こんな夜中に出歩いて」
「秋山さんこそどうしたんですか。何でここにいるんです」
「探したんだよ」
言いながらくしゃりと髪を撫でてくる。冷たいと思っていた手が今度は温かく感じた。錯覚だろう。
「まだ髪濡れてる」
「もう春ですよ」
間が悪く風が吹いた。遂にくしゃみが出た。
「……風は強いですけどね」
「春一番というのを知らないのか」
持ってきていたらしい私の上着を肩に掛けてくれた。暖かくなった分、目の奥で凍っていた水が溶け始めたらしい。
「……大丈夫なのか」
返事が出来ないままだった。嘘が下手な私が取り繕ったって、嘘が上手な彼は簡単に見抜いてしまうだろう。
「秋山さん」
「何だ」
「歩いてるとね、大丈夫になれそうなんです」
「…………」
「いくら涙出てても、平気になれると思うんですよ」
「……そうか」
「だからね、」
「分かった」
最後まで言わせずに、彼は私の手を引いて歩き始めた。少し遅れてついていく。斜め後ろからの端整な顔は前を見ている。私の顔を見まいとしているようだった。やっと気付く。
「……秋山さん」
「何だ」
「こっち、見ないでくださいね」
「分かった」
昔流していた涙は彼が止めてくれたから、もう彼の前で流さないと決めた。
「見ないでくださいね」
「うん」
「歩いてれば大丈夫なんです」
「うん」
街灯まで曇っていた。瞼に押し付けた袖がどんどん重くなった。耳元で鳴る風と一緒に足音が二人分、丸い光を辿るみたいに、いつまでもいつまでも続いていった。











Title:泳兵
てれささんリクエストの「夜の散歩をする秋山と直ちゃん」でした。
すいません、リクエストから溢れ出す繊細な穏やかさをガン無視したようなどうにも微妙な話となってしまいました……何があったの私
直ちゃんの手を引く秋山、というのは実は私の中でのてれささんちの二人のイメージなのです。魔が差して書かせていただきました。
こんな良く分からない感じな有り様ですが、煮るなり焼くなりお好きになさってください!リクエストありがとうございました。
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