噛んだ。指から歯に伝わった緊張まで愛しかった。口の中で舐め上げるとびくりと跳ねて、見上げてやれば真っ赤な顔がこっちを凝視してる。
「照れる」
「あ、秋山さんが!」
「俺が何」
ぱくぱく開閉する口、そっちにも口付けたいな。今はそれどころじゃないが。その部分に用は無いがつるりとした爪を舌でなぞる。そういえば何か塗ってたな。いらないのに。音を立てて指を離してやるとまた赤くなる。どこまで赤くなるんだろうな。試してみたくなる。
「痛かったか?」
「……少し」
本当はもっと痛かったくせにそう言う。なんせ歯形まで付けた。左手薬指の付け根にぐるりと巻いた赤黒い痕。実は噛み千切ろうかなんて一瞬思った。万が一に備えて。薬指がなかったら俺以外の男に贈られた指輪を嵌めることもない。ただそれを実行すると君は俺の指輪まで受け取れなくなる訳であって、大人しく耐える。
「ごめん」
心から言った。苦しめたいと思ったことは一度も無い。柔らかい綿にでも包んでどこか誰の手も届かない深い所にしまっておきたいくらいだ。それでも仕方ないと思う。痛覚程度で君が俺を認識してくれるというなら。
「俺のものになってくれますか」
声が掠れていた。演技じゃないのか、と自分を疑った。本当らしい。
さっきまでの喧しさを捨てて、こくんと小さく頷いた君を確かに見る。真っ白い華奢な指に歪な歯形。我ながら禍々しい自分の所業に笑う。どう思うだろう君は、恐れて、くれるだろうか。
単純な話だ。繋ぐものは多ければ多いほど良い。心理的だろうが道徳的だろうが法的だろうが、頭に付く単語は何でも構わないし、言ってしまえばあの狡猾な白づくめの男よろしく恐怖心だって利用してやる。何があったって離すものか。だから俺は祈るのだ。
ねえその痛みを忘れないでね。
死んでも忘れないでね。












Title:泳兵
ちいさんリクエストの「秋直のプロポーズ話」でした。
ヤンデレ山を気に入ってくださったということでしたので、「ヤンデレなプロポーズって……!」と頭を抱えた結果こうなりました。お前はそろそろ発想力を磨きなさい
拙宅のヤンデレ山にしては派手な病み方をしたような気がします
いつもは地味だもんね君
ちいさん、リクエストありがとうございました!
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -