馬鹿じゃないのって、心からの正直な感想を述べてやれたらどんなに爽快かと思うと今すぐ実行に移したくて堪らなくなるんだが、どうせそんなことを一回でも口に出せばあの詐欺師から三倍は馬鹿にされ返されるだろうという確信があるから、行儀よく口を噤んでやった。
「あ、久慈くん、塩足りなかった?」
まるで見当外れの解釈をしたらしい彼女は黙りこんだ俺に小瓶を向けてくるけど、慎んで遠慮。普通に美味しいし、このスープ。出来れば塩よりも、そこの目付きが恐ろしい詐欺師の気を鎮めてくれた方が俺としてはより健やかな食事が出来る気がするんだよ。平和な食卓の上で明らかに戦場モードなんだけど。
「どしたの、秋山サン」
「………」
ガン無視。どうしてくれようか。最初から言葉のキャッチボールなんてこの男には期待してないけど(何せこの男は彼女以外の人間に毛ほどの交流価値も見いだしやしないのだ)、そんなことしたら当然、
「秋山さん、どうしたんですか?」
彼女が不思議そうにその顔を覗きこむに決まってる。いや貴女が彼の不機嫌の引き金の一つだよ。と言うべきか否か、やっぱりやめる。
「何でもない」
まるで良くないくせに。二人っきりが良かったと思ってるなんて、彼女以外には見え見えなんだよ。あんた本当に何年か前に世間を騒がせた天才詐欺師なわけ、そんな分かりやすくてどうしてマルチなんか潰せたのさ。それくらいあからさまならいっそ口に出せばいい。鈍くて馬鹿な彼女にはそれくらいしないと一生届かないだろうね。
「二人はさ、いつからの付き合いなんだっけ」
一つ石を投げ込んでやる。
「ええと、一回戦からかな。私が騙されてた所を秋山さんが助けてくれて」
「限り無く強引だったけどな」
「えへへ、でも待ってたら来てくれたじゃないですか」
「それは、」
言い澱んで一瞬視線を泳がせる様子。当時このまどろっこしい二人に何があったのか俺に知るよしはないけど、とにかくこの正直者にほだされたんだろう、この詐欺師は。ついでに正直者も何故か詐欺師にほだされて、何だ結局両想いだ。じゃあ何で俺が挟まれるの。
馬鹿な中学生じゃあるまいし、良い歳した大人が一緒においしく夕食食べて、仲良くお喋りして、終電の前にさよならまた今度。いっそ馬鹿な中学生の方がもっと発展して爛れてる。つまり中学生以下の馬鹿だ、この二人。
スプーンを置く。投げた一石は見事に水底に吸い込まれていった。つまり、この大人二人はお互いにウツクシイ想いを抱きすぎてすっかり安定しちゃったってやつか。安定しすぎて相手が自分と同じことを考えているなんて夢にも思わずに。
「ごちそうさまでした」
「美味しかった?」
「うん」
「ありがと、また作るね。秋山さん、どうでした?」
「……旨かった」
「……えへへ」
頬を染める彼女に少し微笑む彼、ままごとの夫婦かよ。
良いですか馬鹿な大人たち、よく聞いてください。
独占したいならその頭でも使って行動を示してください。気付いて欲しいなら美味しいご飯以外の露骨な愛をぶつけてみてください。
それから、俺みたいな若造に可愛いなんて思われちゃうことを恥じてください。















Title:クロエ
夏目さんからのリクエスト「お互い片想い秋直+久慈くん」でした!
しばらく久慈くんを書いていなかったので彼のキャラを完全に忘れていたのですが……久慈くんになってますか?久慈くんて名前の他人じゃありませんか?
何だか勝手に久慈くんを秋直の子どもポジションに置きたい欲望に負けてこんな雰囲気になりました。+ってこういう解釈で大丈夫ですかね
リクエストありがとうございました!
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